2005年10月3日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
海外でも大人気
漫画「NANA」映画
その魅力とは?
二十歳の同じ名をもつ二人の女性の友情、生き方を描く漫画『NANA』(矢沢あい作)。一九九九年に少女漫画雑誌で掲載が始まって以来じわじわと人気が広がり、いまでは単行本十三巻で二千九百万部発行という超人気作品になっています。いま公開中の映画は観客動員数が二百万人を超え、出演の中島美嘉と伊藤由奈が歌う主題歌と挿入歌もヒットチャートの上位を占めています。若い人を中心に広く支持される『NANA』の魅力とは――。(中村美弥子)
『NANA』の登場人物たちの行きつけの店で、映画にも出てくるダイニングバー「ジャクソン・ホール」(東京都調布市)を訪れたファンに聞くと、「『NANA』はこれまでの少女漫画とは違う」という声が多く出されました。
小野恵さん(27)=東京・杉並区=は「少女漫画に多い男性のナヨッとした目は苦手」ですが、「『NANA』は男性の描き方が豊かなんです。私の彼氏も愛読しています」。友人の鈴木理恵さん(27)=東京・稲城市=も「先のストーリーが読めず、いつも“こう来たか”といい意味で裏切られます」と笑います。二人は『NANA』のファッションやインテリアがおしゃれで、会話もテンポがよくて面白いと語ります。
「私がなりたいのはハチ。見ているだけならナナかな」というのは、東京・墨田区の女子高校生のAさん(16)です。「同性の友情とか愛とか嫌悪感はないですよ。いいなぁと思う」。同級生のBさん(16)も、「(ストーリー展開が意外で)“あぁーなっちゃった”って乗せられてしまうところが魅力かな。ハラハラしているうちに引き込まれていく」と話します。
ナナとハチの二人を軸に展開される物語は、ナナのバンド仲間やライバルのバンドなど多彩な登場人物との関係を交えながら、若い女性の生き方や心情をリアルにきめ細かく描いています。バンドと恋人との両立に悩むナナと失恋や妊娠という厳しい現実に直面するハチの二人の葛藤(かっとう)が痛々しくて切ない。多感で傷つきやすい若い女性のひたむきな姿にエールを送りたくなります。
小竹薫さん(23)は、「漫画のなかで登場人物が学び成長している姿に共感します」といいます。「少年漫画が描く女性の価値観は画一的で退屈」と話すのは、小竹さんの婚約者、吉村竜児さん(36)=東京・調布市=。「『NANA』では、違う価値観をもつ二人の女性が感情をぶつけ合いながらきずなを深めていく。その様子が丁寧に描かれているし、登場人物の一人ひとりが考えや人格をもっているところも読み応えがあります」
ナナとハチの深い友情や恋愛の悩みといった普遍的なテーマを巧みなバランスでデリケートに描いていることが、言葉や文化を超えて支持を広げる『NANA』の魅力なのかもしれません。
■7カ国・地域で上映も
『NANA』は韓国、香港、ドイツ、フランスなど七カ国・地域で翻訳発売され、各国でも熱烈なファンを獲得しています。インターネットの掲示板では世界各国のファンが活発に交流しています。
イタリアのファンは「二人の女性の生き方と葛藤というストーリーがとても現実的」と評価。ほかにも「主人公と喜怒哀楽をともにできる」(フランス)などの書き込みが目立ちます。
各国で人気が広がるなか、映画はシンガポール、インドネシア、香港などアジア七カ国・地域での上映が決まっています。
ジャクソン・ホールの店員、佐藤靖さん(25)によると、韓国やフランスからも『NANA』ファンが駆けつけるといいます。
■人間の光と影描く
漫画評論家、石子順さん(和光大学教授)の話
『NANA』は、一人の人間がもつ光と影の両面を性格が対照的な二人の人物に投影させて描いているのではないでしょうか。ナナはクールで音楽のために生き、ハチは恋愛が大事で結婚にあこがれている。二人がぶつかり合い、入り交じることでストーリーが広がり面白さが出てきます。非常に欲張った漫画で、巧みにできています。
二人はライバルではなく、もたれ合いながら生きている。ナナが弱みを見せたり、ハチが強くなったり。
読者にしてみれば、芝居とかバレーとか、一つのものに打ち込む登場人物には同化しにくいものがありますが、その点、『NANA』は傷つき悩む主人公の普通の姿があり、そこに共感し、身近な存在に思えるのでしょう。
また、『NANA』の絵は線が直線的、ぶっきらぼうなようでやさしい。その眼から、みんな生きてるよという感じがにじみ出ているのです。だからこそ独特のキャラクターの魅力が生まれるのでしょう。ここにも『NANA』の新しさがあります。
■あらすじ
孤独な子ども時代を送り、パンクバンドのボーカルとしてメジャーでの成功を目指す大崎ナナと、恋愛が一番大事で恋人を追いかけて上京する小松奈々(通称ハチ)。この2人が『NANA』の主人公です。ナナとハチは東京行きの電車の中で出会います。見かけも性格も夢もまったく違う2人は東京で一緒に暮らし始め、強い友情で結ばれるようになります。
■お悩みHunter
■離婚して子ども2人割のいい仕事に動揺
Q 私には二人の子どもがいます。離婚して実家にもどり今はパート。両親と一緒なので、やっと生活できる程度です。でも、親もまもなく定年を迎え将来が不安です。私のように資格がない者にとって、割のいい仕事となると決まってきます。実は離婚して子どもがいる友達からも誘われているんです。お金がほしいので動揺しています。(30歳、女性。栃木県)
■大切にしたいこと見つめて
A 離婚して、幼い子どもを抱えながら生活するのは、本当に大変ですね。
離婚を決意されるまでも、されてからも、相当のご苦労がおありだったでしょう。どんな事情であれ、そんな苦労をくぐり抜けてきたあなたは立派です。二人の子の教育のこと、今後の生活のことなどさまざまな重圧があなたにのしかかるかもしれません。でも、その心配や不安は、あなたが将来を真剣に考えている証拠でもあるのです。そういう自分をもっと信頼してやってもいいと思いますよ。
経済面の心配もさることながら、あなたがわが子とどのように向き合い、何を大切にしながら、今後の人生を生きたいのかしっかり見つめることが大切なように思います。収入面だけを考えると、確かに他に割のいい仕事もあるにはあるでしょう。しかし、将来を考えるのであれば、今からでも少しも遅くはないのです。
しかもあなたはまだお若い。新たに資格取得に挑戦し、それを生かしたやりがいのある仕事を探すこともできます。いかに困難ではあっても、自らの尊厳をないがしろにすべきではありません。私たちは労働を通して人間的成長や発達を遂げるものです。そしてその魅力があなたを輝かせます。ご自分の人生を大切にされる中で、いつかあなたを支えてくれる素敵な人たちとの出会いもあるに違いありません。
■教育評論家 尾木 直樹さん
法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。