2005年10月2日(日)「しんぶん赤旗」
連続上陸ハリケーン
傷深い米国
超大型ハリケーン「カトリーナ」が米国に上陸して一カ月たちました。その後「リタ」も上陸して追い討ちをかけました。最大級の自然災害に揺れる米国の現状をみてみました。(ワシントン=山崎伸治)
■けた違いの被害
八月二十五日にフロリダ半島に上陸した「カトリーナ」は、フロリダ州を横断したあとメキシコ湾を西進中に、全米ハリケーン・センター(NHC)の五段階の指標で最も強い「カテゴリー5」(風速七十メートル以上)まで勢力を強めました。二十九日にルイジアナ州に上陸したときも「カテゴリー4」(風速五十九―六十九メートル)の勢力を保っていました。
「リタ」も一時「カテゴリー5」を記録し、ルイジアナ、テキサス両州境に上陸した時(九月二十四日)には「カテゴリー3」(風速五十―五十八メートル)でした。
■推定2千億ドル
NHCの記録によると、一八五一年以降「カテゴリー5」を記録して米本土に上陸したハリケーンは、今回の「カトリーナ」と「リタ」のほか、一九三五年の「レーバーデー」、、六九年の「カミール」、九二年の「アンドルー」のわずか三例しかありません。
被害総額では、従来「アンドルー」が二百六十五億ドルで最高とされてきました。「カトリーナ」はそれをはるかに超え、二千億ドル(二十二兆六千億円)と推定されています(「リタ」は八十億ドル)。ブッシュ政権は復興に二千億ドルの予算をあてるとしており、米史上最悪の洪水被害になったことは間違いありません。
これまでに明らかになった犠牲者は千百三十人。二〇〇四年の「アイバン」の犠牲者が、カリブ海諸島の犠牲者も含めて百二十人だったことを見ても、けた違いです。
連邦緊急事態管理局(FEMA)が「災害非常事態宣言」を出したのはアラバマ、ミシシッピ、ルイジアナ三州の二十三万三千平方キロメートル。これは英国の総面積に匹敵します。被災者は数百万人に上るとみられています。
■石油と雇用深刻
「カトリーナ」と「リタ」の二つの大型ハリケーンによる経済的な被害が具体的に表れるのは、むしろこれからです。
今年前半から続く原油価格の高騰に拍車がかかっています。メキシコ湾岸は、米国の石油生産量の29%、天然ガスの19%を占めます。輸入原油の60%は同湾岸の港に陸揚げされ、精製されます。ハリケーン「リタ」は七百カ所の油井のある地域を通過。国内の精製量の31%にあたる百五十六万バレルの原油供給をストップさせました。石油関連施設への被害は史上最悪との指摘もあります。
鉄道などの大量輸送できる公共交通が貧弱で自動車依存度がきわめて高い米国。ガソリン価格の高騰は、被災地だけでなく全米の国民生活に直接的な影響を及ぼします。ワシントンでは九月一日から市内のタクシーがいっせいに値上げ。全米を結ぶ鉄道アムトラックも値上げに踏み切りました。
■失業40万人にも
かねてから経営悪化が指摘されてきたデルタ航空、ノースウエスト航空が九月に相次いで破産を申請したのも、ハリケーンによる原油高騰の影響が指摘されています。
米国はこれから十一月の感謝祭、十二月のクリスマスと一年で最も消費が伸びる時期を迎えます。しかし冬場のエネルギー確保への不安から、消費マインドが冷え込むとの見通しもあります。
労働省によれば、ハリケーンによる失業者は二十七万九千人に達しました。議会予算局は二十九日、二つのハリケーンのマクロ経済への影響についての報告を公表。被災地での失業者が最大で四十万人となり、今年下半期の経済成長率が当初見通しの3―4%から、0・5ポイント程度下回るとの予測を示しました。
イラク戦費の拡大とあわせ、ハリケーン対策費の増大で財政赤字がさらに増えるのは必至です。
■目立つ「人災」面
今回、大きな被害を出したルイジアナ州は、ハリケーンによる洪水を繰り返し経験してきました。ことに、ミシシッピ川のデルタ地帯にあり、海抜零メートル以下の地域が総面積の七割を占めるニューオーリンズ市が洪水に弱いことは、これまで繰り返し指摘されていました。地元紙タイムズ・ピカユンは二〇〇二年に掲載した「押し流される」と題する特集連載で、大型ハリケーンが上陸すれば堤防の決壊などで大きな被害が出ると警鐘をならしていました。
米陸軍工兵隊は一九九〇年半ばから同地域で堤防を強化し、水をくみ上げる事業に取り組んでいました。今年は三百六十五億ドルの予算を要求したにもかかわらず、ブッシュ政権は百四億ドルしか認めませんでした。政府の災害対策への認識の甘さが示されています。
大規模な災害が起きた場合、その対策の調整に当たるFEMAが、ブッシュ政権のもとで〇三年三月、国土安全保障省に統合。優先課題を自然災害からテロ対策に移していたことも問題となっています。自然災害対策のための予算が限られたうえ、そのための訓練も不十分だと指摘されています。
■戦争優先が災い
それに加え、本来なら自然災害で出動する州兵部隊がイラク戦争に駆り出されていました。
これらの結果、「カトリーナ」の場合、避難命令は出ても事前の避難のためのバス輸送などの具体的対策がとられませんでした。
人口五十万人のニューオーリンズは人口の二割が極貧層で、米国でも有数の貧困地域。それは人口の三分の二に達するアフリカ系米国人に集中しています。車社会の米国で車をもてない十万人以上が避難できず、大きな犠牲を出す要因となりました。「リタ」の場合は避難策がとられたため、犠牲は九月末時点で十人にとどまっています。
「対テロ戦争」を優先するブッシュ政権の政策が、被害の拡大を招きました。二十日に発表された世論調査でも、「イラク戦費を削減し復興費用の財源とすべきだ」とする人が54%に達しています。