2005年9月26日(月)「しんぶん赤旗」
建設労働者
石綿肺がん死 年8千人に
専門医試算
建設労働者の石綿被害者に関する専門医の試算によると、現在実態がつかまれていない石綿肺がんの死亡者は少なくとも年間八千人と推定されることがわかりました。判明している中皮腫死亡者の十倍にもなる数です。石綿含有建材の規制遅れが深刻な結果をもたらしており、見落とされている多数の肺がん被害者の救済に迅速で誠実な政府の対応が求められています。
石綿肺がんについては死亡統計がなく、NPO法人「職業性疾患・疫学リサーチセンター」理事長の海老原勇医師が推計値を算定しました。
海老原医師が、建設関係の労働組合員七千三百十七人の死亡原因を調べたところ肺がんについては一般人より、一・二二倍高いことがわかりました。建設作業者の肺がんは、ほとんどのケースで石綿を吸いこんだ証拠の胸膜肥厚斑が認められるため、肺がんを石綿肺がんとみなして計算しました。
男性全体の肺がん死亡者数は〇三年の統計で四万一千六百三十四人で、人口十万人当たりの死亡率は六六・八人。建設作業者は退職者を含めると約一千万人なので、六千六百八十人が死亡している計算です。この数字を一・二二倍した八千百五十人が石綿肺がんの死亡者数と推計しました。
中皮腫死亡者は年間八百七十八人(〇三年)。肺がん死亡者はこれよりけた違いに多く、石綿肺がん被害者の多数が見落とされているのが現状です。
海老原医師の報告(『労働の科学』昨年五月)によると、建設作業者の肺がん七十七人を検討したところ、このうち七割を超える五十七人(74%)が石綿肺がんの特徴を示していました。しかし、この五十七人全部が、石綿肺がんと診断されたことはなく、職歴も聞かれず、喫煙のみを詳細に聞かれただけでした。
海老原医師は「建設作業者の中に石綿関連肺がん例が多発しているにもかかわらず、きちんと診断されないまま被害のみが進行しているのが実態」と指摘しています。
石綿被害者の労災による救済に取り組んできた神奈川県建設労連の佐瀬新意(しんい)・書記次長は「私たちの取り組みでも中皮腫より石綿肺がんの認定数がはるかに多い。マスコミの報道をみていると診断のつきやすい中皮腫ばかりが注目されるが、その半面はるかに多数の石綿肺がんが見落とされている。石綿関連企業も中皮腫は公表しても肺がんの死亡例は公表してない。これが現状をよく示している」と指摘しています。