2005年9月19日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
2次元キャラに魅せられて
ただ今「萌え」中
「萌(も)える」。最近よく聞くこの言葉。アニメや漫画、ゲームに出てくる架空のキャラクターへの愛情を表します。いまや「888億円」ともいわれる「萌え」市場。市場を中心となって支えるのは若者たちです。2次元の美少女キャラクターなどにひかれる若者たちの心模様とは―。
「彼女は僕の理想をすべてもっている。やさしくて、きれいで、かっこいい。彼女に出会い僕の人生は変わった」
フリーターの大村正樹さん(20)=仮名は、学園を舞台にした恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル2」に出てくる「陽ノ下光」という女性に夢中です。
ゲームが発売されたのは約六年前。その間「彼女一筋」。「彼女」関連のキャラクター商品を買い続けています。
「そのために働いているようなもの。彼女がいて、この世界があるから生きている」。二つの仕事を掛け持ちして得た給料のほとんどは、グッズの購入とイベント参加代に消えています。
東京・秋葉原―。漫画やフィギュア、ゲームなど「萌え」商品を扱う店がひしめきあいます。土日ともなれば、若い男性でいっぱいになります。
■かわいいし、どきどきする
相模原市の男性会社員(27)は、「妹系」といわれる年下の女性キャラクターが好み。好きなキャラクターの商品はすべて買いそろえています。「会社と家の往復」という毎日。唯一の楽しみが「この世界」といいます。
「魅力ですか? かわいいし、どきどきする。架空恋愛といわれれば、そうかもしれないけど、現実とは分けている」
「萌え」キャラにひかれるのは男性だけではありません。アニメやゲームのキャラクターを模したコスチュームをする「コスプレ」ファンの多くは女性です。
東京国際展示場で八月に開かれた「コミックマーケット」。三日間でのべ四十八万人が参加し、コスプレ広場には一万人が集まりました。
フリルのピンク色のメイド服で、男性のカメラの前でポーズをとっていたのは瀬菜あんりさん(コスプレネーム、十九歳、フリーター)。「『かわいいですね』とほめられることなんて普段はないから、うれしい」
コスプレ歴は半年。「自信をつけたかった。コスプレを始めて積極的になれたし、幅広い世代の友だちができた」と、屈託なく笑います。
■現実よりもずっと楽しい
「現実よりもこの世界にいる方がずっと楽しい」というのは、専門学校一年生の女性。自作の衣装です。「需要と将来性もあるから」と、美少女キャラクターを描くイラストレーターを目指しています。付き合っている男性もいます。
「現実の恋愛は、けんかもするし、いろいろ考えなきゃいけない。ゲームだったらリセットして、やり直せる。それに学校では話のあう人もいない。ここにくれば分かってくれる人がいっぱいいる。だから絶頂に楽しいんです」
■「萌え」市場と国際戦略
浜銀総合研究所は今年4月、「萌え関連市場規模」が888億円に上るというレポートを発表。「萌え」要素の強い書籍、映像、ゲーム、がん具などを扱う企業の株価が急上昇しました。
経済産業省は2003年、ゲームやアニメ、音楽などのコンテンツ産業の「国際戦略研究会」を発足。メンバーには大手ゲーム会社や電機メーカーの社長が名を連ねました。「日本の有力な輸出産業」と位置付け、国は支援策を行っています。
■現実との連携をとりながら 人としてどう豊かに生きるか
■横浜市立大の中西教授に聞く
『若者たちに何が起こっているのか』の著者で横浜市立大学国際文化学部の中西新太郎教授の話
「萌え」とは、生身の人間ではない、バーチャル(仮想)の二次元キャラクターに恋心や性的関心を抱くことです。現象としては八十年代ごろからありました。「かわいく、楽しませてくれる」だけだったらバーチャルの方が扱いやすい。好みの女性も見つかりやすい。つらいことが起きない、傷つかない世界です。
最近の特徴は、男性の「萌え」に女性も対応していることです。生身の自分を少なくし、バーチャルな存在になることで、自己表現をしながら、男性に認められたいという思いも満たしている。
若者がバーチャルに理想像を追い求める背景に、生きづらさがあるのは間違いありません。現実のなかで得ることが難しい、つながれる、認めてくれる、安心できる世界を若者は求めています。
「犯罪を誘発する」などという意見もありますが、大多数の人は、現実と区別出来ています。犯罪を起こしやすいという統計もありません。
ただ、表現のなかに潜んでいる暴力性、抑圧関係といった問題には自覚的であるべきです。幼児ポルノにつながっていることもあります。日本文化全体の問題として議論する必要があります。
今の若者は生まれたときから、人間関係の商品化を特質とする消費文化の中にいます。アニメやゲーム、漫画は、サブカルチャーではなく、メーンカルチャーとして若者の人格形成に大きな影響を与えています。
大切なことは、現実とバーチャルとの連携をとりながら、どう人間として豊かに生きていくかという視点を持つことです。おとなはそれをサポートする。どこに問題があるかを指摘し、生きにくい社会を必死に生きている若者たちの願いを受けとめることが大切です。
■取材を終えて
若者は架空の世界になぜ夢中になるのか――。そんな思いから始まった取材。実際に触れてみて、若者が引きつけられていく多種、多様性に驚きました。同時に、次つぎと新キャラクターを生み出しては商品を発売する、という企業論理が少なからず働いているとも思いました。
取材に応じてくれた若者は、決して「特異」ではありません。ただ、好きなキャラクターについて目を輝かせて話す姿と、伏し目がちに、時には投げやりに現実の自分を語る姿に、ギャップを感じたのも事実です。(芦川章子)
■お悩みHunter
■好きな人がいるけどどうしたらいいの?
Q 私には大学の同じ学部に好きな人がいます。明るくてピュアで友達も多く、その人のすべてにひきつけられるのです。彼もいると思います。私は友達も少なく、おとなしくてつまらない男です。でも、気持ちを抑えることができません。彼女の姿をみつけ、すれ違うだけでもドキドキします。どうしたらいいのかわかりません。(20歳、学生。神奈川県)
■心の声に耳をかたむけて
A 最高にピース&ハートフルなあなたのお悩みに、私の心もキュンッとさせられます。とっても、幸せな気持ちになりました。
人を愛せない、好きになれない、恋すらできない、という人たちが少なくないですよね。あなたのような悩みを抱いている方に出会うと、私はホッとします。
あなたは恋をすることができたのです。ならば、あなた自身の正直な心の声に耳をかたむけてください。自分が相手に対してどうしたいのか、何を望むのか。自分の心の声に従うことが、一番の解決法だと思います。
相手に彼がいるかどうかは、聞いてみないと分かりません。彼がいたっていいじゃないですか。彼女にとって、友達も少なくおとなしい目立たない存在のあなたが、非常に魅力的にうつるかもしれませんよ。
あなたはつまらない男ではありません。私の心をキュンッとさせ、幸せな気分にさせたほどの人です。勇気をふりしぼって、相手の心に触れてみてはいかがでしょうか?
あなたの思いが深ければ深いほど、熱ければ熱いほど、相手も心を動かすかもしれません。もし、失敗することがあったとしてもめげないでください。自分を信じトライし続けることをおすすめします。
まずは、あなたから勇気の一歩を踏み出してみましょう。
舞台女優 有馬 理恵さん 「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事