2005年9月20日(火)「しんぶん赤旗」
社会保障削減
二大勢力の「改革」ノー
独総選挙の結果
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▼今回のドイツ連邦議会(下院)総選挙結果が示したのは、ドイツ国民が社会民主党(SPD)とキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の与野党二大勢力への明確なノーを示したことでした。
選挙では、社民党中心のシュレーダー政権がこの七年間に進めてきた社会・経済改革政策の是非が問われました。同政権は、二十一世紀の経済のグローバル(地球規模)化と高齢化社会の進行のもとで、社会福祉を維持するには改革が避けられないとの認識に立ち、失業問題を解決するための労働市場政策「ハルツ改革」、経済改革政策「アジェンダ二〇一〇」を実施してきました。しかし、雇用の拡大という改革の目的は実現せず、失業者は逆に四百七十万人に増大しました。一方で、失業扶助金削減、失業保険給付期間の短縮など社会保障削減に有権者の批判が集中しました。
■財界要求に沿い
この批判を背景に、CDU・CSUは、シュレーダー首相が下院解散・総選挙を発表した直後の六月には世論調査で50%に迫る支持率を得ていました。しかし選挙戦のなかで、CDU・CSUが連立与党の改革政策に協力していたことや、その政策が、よりひどい国民負担を強いるものであることも明らかになり、最終盤にいたって急速に支持を失いました。CDU・CSUは、所得税率を一律25%にする経済政策を持つキルヒホフ氏を財政相候補にし、財界の要求に沿い「コストを下げれば雇用は増える」として労働時間延長、解雇規制緩和などの労働柔軟化、賃金や社会保険費負担など労働コストの削減を強く打ち出しました。有権者はこの選択も退けました。
この中で明確な躍進をしたのが左翼党です。左翼党は選挙戦でシュレーダー政権の社会保障削減を徹底的に批判し、CDU・CSUに対しても「さらに悪い政権になる」(ギジ元党首)と指摘しました。政策では「労働時間を減らして現存する仕事を効率的に分担すれば仕事は増える」「最低賃金千四百ユーロ(約十九万円)、最低年金八百ユーロ(約十一万円)を保障して国民に購買力をつければ経済も回復する」と具体的な対案を示し、国民の共感を得ました。
■下地に抗議運動
失業保険手当の削減や社会保障削減に反対し昨年来、ドイツ各地で起こった抗議運動が下地となり、旧東独部と旧西独部の左翼が共同できたこともこの躍進の一因となりました。
旧東独の政権政党、社会主義統一党(SED)の後継政党である民主的社会主義党(PDS)は、旧東独では従来から20%前後の支持率を持ってきましたが、旧西独部への影響力拡大が課題でした。同党は左翼党と改称、旧西独中心の「労働と社会的公正のための選挙代案」(WASG)との間で統一選挙名簿をつくることで、旧西独部で4・9%、旧東独部で25・4%の得票率を確保しました。
PDSは、前々回一九九八年の総選挙で比例議席配分に必要な5%を初めて上回り、三十六議席を獲得、議会会派資格を獲得しましたが、二〇〇二年の総選挙では4%で小選挙区当選者のみの二議席に後退し、会派資格も失っていました。
今回の選挙では二千人の労組活動家が左翼党支援を新聞紙上で訴えました。ペータース金属産業労組(IGメタル)委員長も左翼党を加えた連立政権を選択肢として提唱しました。
公共テレビ放送(ZDF)の出口調査によると、労働者の左翼党の支持率は12%、失業者の支持率は25%で全体の支持率8・7%を大きく上回りました。
(ベルリン=片岡正明)
■ドイツ総選挙の暫定結果
ドイツ中央選管が19日未明に発表した総選挙の暫定結果は以下の通り。(%は得票率、カッコ内の増減は前回総選挙との比較)
◇キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)
35.2%(3.3ポイント減)、225議席(23議席減)
◇社会民主党(SPD)
34.3%(4.3ポイント減)、222議席(29議席減)
◇自由民主党(FDP)
9.8%(2.4ポイント増)、61議席(14議席増)
◇左翼党(前回選挙時は民主的社会主義党=PDS)
8.7%(4.7ポイント増)、54議席(52議席増)
◇90年連合・緑の党
8.1%(0.4ポイント減)、51議席(4議席減)