2005年9月14日(水)「しんぶん赤旗」
米・イラク軍攻撃
タルアファルのジャーナリスト語る
民間人標的に死者200人
5歳の子どもまで殺害
【カイロ=小泉大介】イラク北部タルアファルへの全面攻撃を行っている米軍とイラク軍あわせて約一万人の部隊は十二日も作戦を継続。イラク軍司令官は同日、「武装勢力」約四十人を殺害したと発表しました。十日の全面攻撃開始後の総殺害数は約二百人に達したとしています。
一方、現地在住のジャーナリスト、ナセル・アリ氏は十二日、本紙の電話取材に対し、攻撃は民間人、なかでもイスラム教スンニ派住民を標的にしたものだとその実態を証言しました。
さまざまな報道が米軍らの爆撃による住民の死者が二百人から二百五十人に上っているとしていることについてアリ氏は、「誰にも本当の死者の数はわかりません。なぜなら、死者の多くが爆撃によりがれきとなった民家の下敷きとなっているからです。通りにも遺体が放置されていますが、爆撃の激しさで収容することができない状況です。動くものすべてに銃撃が加えられ、五歳の子ども二人も殺害されました」と語りました。
同氏によると、米軍などは爆撃や銃撃と同時に徹底した家宅捜索を行っており、女性や子どもも多数拘束されています。病院に負傷者を搬送した男性が、占拠している米軍にそのまま拘束される例もでています。
米軍などが攻撃の理由に「外国人を含めた武装勢力の存在」をあげ、三百人以上を拘束したとしていることについてアリ氏は「実際に外国人を見たものなど誰もいません」と断言。「米軍が武装勢力やテロリストを逮捕したというのなら、なぜ従軍している御用メディアを使って証拠映像を放映しないか」と指摘しました。
アリ氏はさらに、「タルアファルにはアラブ人、トルクメン人のスンニ派教徒が多数ですが、イスラム教シーア派住民もいます。しかし、シーア派住民地域では攻撃や家宅捜索は行われていません。攻撃の目的がスンニ派地域だけを焼き払うものであることは明らかで、同派住民は真の悲劇に見舞われています」と強調しました。
■スンニ派地帯攻撃で対立あおる
米軍とイラク軍によるタルアファル攻撃は、多数の民間人死傷者を生むとともに、宗派、民族間の対立をさらにあおるものとなっており、今後のイラクの政治展開にも重大な影響を与えるものです。
米軍は今回、内外の批判をかわすため、攻撃に米軍が訓練した多数のイラク軍部隊を動員しています。報道や現地住民の証言によると、その主体となっているのは、「ペシュメルガ」と呼ばれるクルド人の民兵組織と、イスラム教シーア派有力組織イラク・イスラム革命最高評議会の軍事部門である「バドル旅団」とされます。
これらの部隊によるスンニ派住民を標的にした攻撃は、憲法起草作業で連邦制導入などをめぐり顕在化したシーア派、クルド人とスンニ派の対立を軍事面で助長するものにほかなりません。米軍とイラク軍は中西部に位置するラマディ、サマラ、ラワ、カイムなどのスンニ派地域にも攻撃を拡大しようとしています。
米政権は表向き、政治的な対立を両者の歩み寄りで解決するよう言明していますが、十月の憲法国民投票を前に米軍が実際に行っているのは、対立を逆に深刻化させるものといわざるを得ません。このことは昨年十一月の中部ファルージャ攻撃がその後の政治展開の混迷を招いたことを見ても明らかです。
イラクでは、米軍が長期駐留の正当化と理由づけのため、意図的に宗派、民族間の対立、さらには内戦状態をつくりだそうとしているとの見方も出ています。
スンニ派有力組織、イスラム聖職者協会はタルアファル攻撃を「国家テロ」と厳しく非難。同派最大政党のイラク・イスラム党も「スンニ派地域に対する攻撃は、占領軍と宗派的性格をもつイラク軍との共通の利益を象徴するものとなっている」と述べ、「愚かで、イラク人の怒りを激化させる攻撃の即時停止」を要求しています。(カイロ=小泉大介)