2005年8月14日(日)「しんぶん赤旗」
郵政民営化
なぜ「百害あって一利なし」なのか
小泉首相はゴリ押しするが…
郵政民営化法案が廃案になるや、「郵政解散だ」と小泉純一郎首相は息巻いています。今度の総選挙を郵政民営化の是非を問う選挙と位置付け、新しい国会に民営化法案を再提出しようとしています。しかし、国会論戦でも明らかになったように民営化に道理はなく、国民にとって「百害あって一利なし」です。
■郵便局は便利になる?
■国民向けサービスがズタズタに
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「民営化されれば郵便局はもっと便利になる」と政府はいいます。しかし、「民間にはできない」サービスをおこなっているのが郵便局です。
郵便局は、全国あまねく、どこに住んでいても、郵便・貯金・保険の通信・金融サービスが受けられるように、事業を展開しています。
全国の郵便局の数は約二万四千七百局。小学校とほぼ同じ数です。利益が確保できる都市部の駅前などに店舗を集中させる民間銀行と違って、郵便局は、歩いていける距離にあります。町村合併や農協の合併、地方銀行や信金・信組のなくなった地域でも、暮らしを支えるもっとも身近な公的機関としての役割を果たしています。
過疎地では、自治体と連携して、独り暮らしのお年寄りへの声掛けなど「ひまわりサービス」を実施。台風や地震などの災害時には、被災者支援のサービスに取り組んでいるのも、もうけ追求が目的でない郵便局だからこそできることです。
政府の民営化案では、この身近な郵便局を、過疎地にある七千局程度しか設置を義務付けていません。過疎地以外でも「郵便局がなくなる可能性はでてくる」(小泉首相)と、過疎地でも、都市部でも郵便局が統廃合される危険があるのです。
重大なことは、庶民の虎の子である郵便貯金に全国一律のサービス提供が義務付けられていないことです。採算の取れない郵便局では、郵貯・簡保の金融サービスは取り扱わないという意味です。
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実際、もうけ優先の民間金融機関では、過疎地でも都市部でも次々と店舗の撤退・統廃合をすすめ、金融機関が郵便局しかない自治体は五百五十(政府資料、二〇〇三年三月末現在)もあります。一般向けサービスはATM(現金自動預払機)まかせ。ATMのお年寄りや障害者へのバリアフリー対応も、郵便局に比べて格段に遅れています。
一方で、大手銀行では少額預金者から口座維持手数料の徴収をすすめています。これでは、高い手数料のために口座をつくることができなくなるなど、庶民が金融サービスから排除される「金融弱者」がつくられてしまいます。
民営化になれば、国民の財産である二万四千の郵便局ネットワークと国民向けサービスがズタズタにされることは必至です。
■公務員減らし 税金の節約になる?
■郵便局に税金は一円も使われていない
政府は、民営化によって郵便局員が国家公務員でなくなるので、税金が節約でき「小さな政府」になると主張しています。
あたかも郵政事業が税金をムダづかいしているような言い方ですが、実際はあべこべです。
国会で、こんなやりとりがありました。
日本共産党の塩川鉄也衆院議員 郵政民営化によって、公務員全体の三割を占める郵政職員を民間人にする、「小さな政府」をつくるといいますけれども、そもそもいま、郵政公社に直接税金が投入されているのでしょうか。
竹中平蔵郵政民営化担当相 直接投入されている税金、そういうものはないと承知しています。(二月四日の衆院予算委)
竹中氏も認めるとおり、もともと郵政事業は税金はいっさい使わず独立採算で経営されています。
郵便局の職員は、国家公務員の身分が与えられていますが、その給料は国民の税金で支払われていません。郵便局の職員を国家公務員から民間の職員にすることで、「公務員数の縮減」を図ったとしても、一円の税金の節約にもなりません。
「民営化すれば民営化会社は税金を納めるので税収が増える」ともいいます。
しかし、郵政公社は、利益の五割を国庫に納付することが決められています。民間の法人実効税率(約四割)よりも高いのです。
その額は、二〇一六年の時点で、民営化された場合の法人税等が三千二百四十五億円になるのに対し、公社の国庫納付金等の負担は三千八百三十六億円。公社の方が、六百億円近く多く国の財政に貢献することになります。(政府の骨格経営試算をもとに算出)
しかも、民営化された郵貯銀行が赤字になれば、国に納める税金はゼロになってしまいます。
■このままならジリ貧?
■公社なら黒字、民営化で赤字
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「公社のままでは経営はジリ貧になる。だから今のうちに」というのが、自民・公明の民営化推進派の言い分です。
しかしこの論法も成り立たないことが、国会の審議を通して明らかになりました。
郵便貯金事業が完全民営化時の二〇一六年度に六百億円の赤字に転落するというのが政府の試算です。一方、公社のままなら、二〇一六年度に千三百八十三億円の黒字になります。
この事実は、日本共産党の佐々木憲昭議員の追及に、竹中平蔵郵政民営化担当相も認めました。
これは分割・民営化で、誕生する郵貯銀行が郵便局会社(窓口会社)に払う「委託手数料」に消費税が課税されるからです。また、銀行が破たんした場合に積み立てている預金保険料の支払い義務が生じるからです。
民営化すればかえってジリ貧になるのが実態です。郵便・郵貯・簡保の三事業一体で経営が成り立っている郵政事業をわざわざバラバラにする民営化の矛盾が表れています。
ちなみに、政府の試算では消費税率を5%で計算していますが、将来税率があがれば、当然赤字額も膨らむことになります。
■ほんとうは何のため
■国民要求でなく日米金融業界のため
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郵政民営化は、国民が望んできたことではありません。では、だれのための民営化なのでしょうか。執拗(しつよう)に要求してきたのは日米の金融業界とアメリカ政府です。
米国側は、保険分野の「規制緩和」として簡易保険の「改革」を一貫して要求。二〇〇〇年代に入ってからは、簡保と民間との競争条件を同じにすることなど、郵政民営化そのものを強く求めるようになりました。
日本の銀行や保険業界も、自分たちの商売の障害になるからと、郵貯・簡保の縮小・廃止を求めてきました。
政府の郵政民営化準備室が、昨年四月以降、米国政府や民間の関係者と十八回も意見交換を重ね、そのうち五回が米国の保険関係者との会合であったことも判明しました。
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できあがった郵政民営化の「基本方針」には、民間との同一の競争条件など、日米の金融業界の要求がおおむね盛り込まれました。
米国の通商分野を管轄する米通商代表部(USTR)が三月に出した報告書は、日米交渉を通じて米国が勧告し、その後、日本政府は修正したうえで郵政民営化の基本方針を発表したことを記述。郵政民営化の基本が、米国の要求に忠実にこたえて作成されたことが明らかになりました。
政府保証があり、「安心、安全」だからこそ、多くの国民は郵貯・簡保を利用しています。政府保証のない民間と同じ銀行と生命保険会社となればどうなるでしょうか。郵貯・簡保の三百四十兆円をめぐり日米金融機関による激しい争奪戦となるでしょう。識者からも「郵政民営化は日本国民の利益になると小泉さんは言いますが、米国ファンド(基金)のごちそうになるだけ」(政治評論家・森田実氏、「朝日」八月十二日付)との見方が出ています。
■「改革を止めるな」というが
■“弱肉強食社会”への突破口
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小泉首相は、郵政民営化を「改革の本丸」と位置付け、「改革を止めるな」と叫んでいます。ところが小泉首相が進める「改革」とは本格的な弱肉強食社会に私たちを導くものです。
小泉首相は、「本当に行政改革、財政改革をやるんだったら民営化に賛成すべきだ」と主張しています。狙いは明らかです。郵政民営化を「小さな政府」づくりの突破口と位置づけ、社会保障を思い切って抑制し、そのうえで消費税率を引き上げる財政「改革」につなげようとしているのです。所得税・住民税の増税で総額十二兆円もの大増税を計画しています。さらに、消費税が10%になれば十二兆円の増税です。この間は、法人税は減税に次ぐ減税でした。これこそ財界・大企業が喜ぶ「改革」です。
これまでも「改革」の名で進められてきたのは、医療、年金、介護保険制度の連続改悪でした。さらに「リストラ」応援による不安定な雇用の激増、「不良債権の早期処理」による中小企業つぶしです。
郵政民営化も社会的弱者を金融サービスを受けることから排除することに拍車をかけます。郵政民営化は“強きを助け、弱きをくじく”本格的な“弱肉強食社会”の突破口です。
民主党もこの小泉「改革」に、「改革のスピードが遅い」と悪政を競い合う立場です。郵政民営化でも法案には反対しましたが民営化そのものには賛成しています。
日本共産党は、小泉政権の発足当初から、この「改革」が「改革」の名に値しないものであると正面から対決してきました。この党を伸ばしてこそ、「本丸」の郵政民営化にとどめをさし、「構造改革」の名による国民いじめの政治を止める確かな力になります。
■郵便貯金があるから浪費がなくならない?
小泉政権は、「郵貯・簡保があるから公共事業や特殊法人などの浪費がなくならない」といいます。
これは政府が行っているムダ遣いの責任を郵貯・簡保に転嫁するものです。財政投融資計画に基づいて国債などを発行しているのは政府自身です。それを郵貯・簡保が運用先として購入しているだけです。
民間金融機関も国債を購入しているではありませんか。一体、小泉首相は“民間金融機関があるから浪費がなくならない”とでもいいたいのでしょうか。政府が自らおこなっている浪費問題を郵貯・簡保に押し付け、郵政民営化の論拠にするのはお門違いです。
大量の国債発行を計画的に減らしていくことは大変重要なことです。そのためには、じゃぶじゃぶとムダや浪費を垂れ流している蛇口を締める以外にありません。これは政府の責任です。責任転嫁が得意な小泉首相には、その意思がないのでしょう。
■資金の流れ 実際は民から官へ
小泉首相は、「資金の流れを官から民へ」といいます。しかし、郵政を民営化しても日本経済全体の資金需要が変わらない限り、「官から民へ」の資金の流れは変わりません。
資金の受け手である民間企業は手元資金が八十二兆円、一年間に十六兆円も積みあがり「金余り状態」(民間シンクタンク調べ)になっています。民間に資金需要がないため、民間金融機関も大量に国債を購入しているのが実際です。いわば、「民から官」に資金が流れているのが日本経済の現状なのです。かつて大蔵省の理財局長として財政投融資の責任者だった自民党の中川雅治参院議員も「資金の流れを官から民に改めるという説明は説得力がない」と指摘しています。
小泉首相の真の狙いは「公社である限り、多少リスクのある運用はできない」といっているように、郵貯・簡保資金をリスクのある投機的運用に道を開こうということにほかなりません。
■郵政事業 日本共産党はこう変える
郵政事業をほんとうに国民に開かれた国営・公営の事業にするための改革も必要です。そのために、日本共産党は提案します。(十一日発表の総選挙政策「自民党政治ときっぱり対決するたしかな野党・日本共産党をのばしてください」)
郵政民営化にきっぱり反対します。
郵便局の全国ネットワークとすべての国民への基礎的金融サービスをまもり、利用者の立場にたったサービスの向上をはかります。
郵政事業の自民党による私物化、選挙への郵便局長や職員の動員をやめさせます。官僚の天下りや業界との癒着にメスをいれます。