2005年7月29日(金)「しんぶん赤旗」
主張
原爆碑の損壊
「過ち」を認めない者の非道
広島市の平和記念公園にある原爆碑(正式名称・広島平和都市記念碑)が、右翼団体構成員によって傷つけられる事件が起きました。
原爆碑中央の石室には、亡くなられた原爆被爆者の名前を記した名簿が納められています。原爆が投下された八月六日には、毎年ここで平和記念式が行われます。まさに「ヒロシマの心」を象徴する記念碑です。
今回の事件は、原爆犠牲者への冒涜(ぼうとく)であり、平和の願いを踏みにじる卑劣な犯罪です。非道な行為を二度と許さないため、厳しい批判の声を上げていきましょう。
■意図的な犯行
原爆碑を傷つけた右翼の男は、警察に自分から出頭し、「(碑文の)『過ちは』という文言が気に入らなかった」「過ちを犯したのは原爆を投下した米国だ」などとのべていると報じられています。
これは、いたずらや思いつきというのではなく、意図的、確信犯的な犯行であることを示しています。二〇〇二年三月にも、原爆碑に大量のペンキがかけられる事件が起きています。その事件との関連や、組織的背景を含め、徹底的な捜査が必要です。
原爆碑は、一九五二年に建立されました。「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」という碑文は、当時からのものですが、“主語がはっきりしていないではないか”という議論もありました。
広島市は、八三年に原爆碑の趣旨を伝えるプレートを設置し、次のように説明しています。
「碑文は すべての人びとが 原爆犠牲者の冥福を祈り 戦争という過ちを再び繰り返さないことを誓う言葉である 過去の悲しみに耐え 憎しみを乗り越えて 全人類の共存と繁栄を願い 真の世界平和の実現を祈念するヒロシマの心が ここに刻まれている」
広島、長崎への原爆投下でアメリカは、二十数万の人の命を奪い、街を壊滅させました。一般市民を含めた大規模、無差別な殺りくは、残虐兵器による非戦闘員の殺傷を禁じた国際法に反した戦争犯罪です。これが、アメリカの重大な「過ち」であったことは明白です。
原爆投下のような重大な「過ち」を再現させないためには、戦争を繰り返さないこと、世界平和を実現することが重要です。アジア・太平洋の諸国にはかり知れない犠牲を強いた日本が、侵略戦争の「過ち」を直視し、反省することは、世界平和の大前提です。原爆碑の文言には、そういう気持ちが込められています。
日本の「過ち」に目をむけつつ、世界平和のために協力する立場に立つからこそ、広島から世界に発する核戦争阻止・核兵器廃絶の訴えが、多くの人々に共感をもって受け入れられることになります。
■侵略戦争正当化の危険
右翼の男は、“悪いのはアメリカで、日本が『過ち』を犯したわけではない”と、「過ち」という言葉を異常に敵視し、原爆碑を傷つけるにいたりました。
こうした考え方の背景になっているのは、この間、日本の侵略戦争の実態に目を向けることを「自虐的」などと攻撃し、「過ち」などなかったかのように歴史を偽造する動きが強まっていることです。
小泉首相の靖国神社参拝や、侵略戦争美化の『新しい歴史教科書』(扶桑社)なども、その流れにあります。
今回の事件は、平和を壊し、人間としての道義性をも壊す、侵略戦争正当化論の危険性を示しています。