2005年7月25日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
安心の出産・医療へ…
各地で医師が不足しています。地域の医療がどうなっているのか、住民の生命を守るためにどんな取り組みが行われているのか―島根県と沖縄県からのリポートを紹介します。
■「島に医者がほしい」 深刻な隠岐諸島、中山間地 島根
島根県内の中山間地や離島で医師不足が深刻になっています。隠岐(おき)諸島では一時期、隠岐広域連合立隠岐病院の産婦人科医が不在になりかけましたが、県が県立中央病院からの派遣延長を決め、当面、本土で出産という事態は回避されました。
七類港からフェリーで二時間余の隠岐諸島には隠岐の島町など四カ町村があり二万四千人余が暮らしています。西の島町に島前病院、隠岐の島町に隠岐病院がありますが、島前病院の産婦人科は月二回の出張診療です。隠岐病院が唯一、産婦人科医常駐の総合病院です。毎年、百四十―百五十人の出産があります。
三月末、「五月以降産婦人科医が不在になる可能性がある」との報道に、不安が高まりました。
六月初めに出産を終えた女性(23)=隠岐の島町=は語ります。「派遣延長と聞き、ホッとしましたが、不安は残ります。私は六月末が予定日でしたが五月末の夕、破水して入院し無事出産できました。もう船はありませんでした。島に医師がおられつくづくよかったと思いました」
隠岐広域連合長の松田和久隠岐の島町長は四月、澄田信義知事に、厚生労働・文部科学両省にも窮状を訴え医師確保での協力を要請しました。
■一カ月前から
隠岐病院の笠木重人院長は「島でお産ができないと予定日の一カ月前から島をでなければなりません。妊婦さんは家を探し待機せねばならず、家族も含め経済的、精神的負担が非常に大きい」と訴えました。隠岐広域連合の田中一隆副広域連合長は、本土での出産を視野に入れた病院の説明会で「初産の妊婦の両親も来られ不安を訴えられました。欠席者からも更年期障害の指導や検診後の精密検査に本土に出なければならないことへの声も大きかった」と産科、婦人科双方で不安が走ったとのべます。「若い夫婦からは子どもを産めないのなら本土へ出ますとの声もありました」と、定住に出産機能確保がどうしても譲れないと強調。
県医療対策課しまね地域医療支援センターも、隠岐病院や広域連合と県内産婦人科医らの人脈で県外の医師に赴任を打診していますが、確約は得られていません。
県地域医療支援会議医師確保部会では過疎地の公的病院が二〇〇六年度、同会議に求める医師数は九十四人になることが報告されました。隠岐病院は六科で十五人を要望。産婦人科では医師の過重労働軽減のため二人を求めています。(島根県・桑原保夫)
■民医連では奨学生制度
島根民医連の金森隆会長・出雲市民病院長の話 いままでは地方の大学に医学生が残って研修して地方の基幹病院に大学が医師を派遣して地域医療を支えていました。臨床研修が義務化され、医学生が、都市部や条件のよい病院に集中したのが医師不足の一因です。
島根民医連では、一般医療を担う医師を育てようと奨学生制度を設けています。一年のときから実習をして第一線の医療、民医連のめざす医療の企画に参加してもらったりしています。そういった活動を通じ医師確保につなげています。
県として将来ビジョンをもち医学生に働きかけていかないと医師不足の問題は解決しません。
隠岐病院への医師派遣 隠岐病院には島根医科大学が派遣を担っていましたが、昨年度からの臨床研修制度などで医師を送れなくなり、昨年十月から県立中央病院が次の医師が見つかるまで限定派遣。中央病院も産婦人科医不足のため、派遣が難しくなりました。
■足りない産婦人科医
■県立病院に不在 別病院に妊婦搬送も 沖縄
沖縄県は有人離島が約四十もある島嶼(とうしょ)県として県民の命守るための中核的な役割をになう県立病院を充実する方向ではなく、県立南部病院の民間譲渡を地元の反対を押し切って進めようとしています。
■予算確保を要求
県立北部病院(名護市)、八重山病院(石垣市)で産婦人科医がいません。県立北部病院では、妊産婦を県立中部病院(うるま市)まで救急車で搬送する状況です。
自公小泉内閣の「三位一体改革」「構造改革」は、県民所得全国平均の約七割しかない沖縄で深刻な医療・福祉切り捨ての状況をつくりだしています。
医師会も沖縄県の医療・福祉削減の「県行革大綱」を批判し、県民の命を守るための予算確保を求めています。
新日本婦人の会は、県立北部病院の産婦人科医の確保の問題などについて、「一刻を争う救急患者を長時間かけて中部病院に救急車で搬送する状態に驚きと怒りを禁じ得ない」「待ったなしの緊急事態に対処できる医療機関が地域に存在しないことは、行政の責任が問われること」「少子化が進むなか安心して子どもを生み育てるためにも、産婦人科小児科の医師確保は緊急最優先の課題」だとして沖縄県への要請行動をしてきました。
医師確保のために沖縄県が琉球大学と話し合い、奨学金など抜本的対策を行うこと、県立病院が県民の求める地域医療の中心的役割を果たすことが求められています。
新婦人県本部としても、島嶼県・沖縄における県立病院、医療問題について学習を深め、安心して地域で生活できる医療体制の充実のために奮闘したいと思います。
(新日本婦人の会沖縄県本部会長 前田芙美子)
■医師養成抑えてきた政府公的支援の仕組みを
■参院厚生労働委員 小池晃議員に聞く
|
日本共産党の小池晃参院議員(参院厚生労働委員、医師)に、医師不足の背景、その打開策について聞きました。
日本の医師数を国際比較すると、OECD(経済協力開発機構)の調査では三十カ国中二十七番目です。人口千人当たり二・〇人で、OECD平均二・九人の約三分の二、最多のギリシャの四・五人の半分以下です。
国が「医師過剰」として大学医学部の定員を減らして医師養成を抑えてきたことが、全国各地での医師不足の背景にあります。
このほかに地域の医師不足の要因の主なものとして、国立大学の独立行政法人化や、診療報酬引き下げもあります。国立大学は「自立的運営、経営の効率化」の押しつけによって、付属病院の診療体制強化のため地域の医療機関に医師の派遣がしにくくなっています。各地の病院は診療報酬引き下げによって経営困難になり、医師を長時間労働などの労働強化で追い詰めています。
個人の使命感、努力だけでは住民の医療にたいする要望にこたえられるものではありません。公的な仕組みが求められています。たとえば、不足している産婦人科や小児科などの公的センターをつくって集団的に対応することも、そのひとつです。女性医師が年々増えていますが、女性医師にとって安心して出産、育児をしながら働ける環境がほとんどできていません。男性も女性も子育てしながら医師として働けるように行政としての支援が必要です。
臨床研修の必修化で、研修医や指導医を研修病院に一定数集中させたことも医師不足の原因のひとつだといわれています。研修制度の確立は、安心・安全な医療のために必要なものであり、問題はそのことへの人的、財政的支援が不十分なことです。
医療に対する予算を削減し、病院の経営や医師の労働をギリギリまで追い詰める政治の転換が必要です。
深刻な医師不足を打開するために国民的議論をして根本的に日本の医療を変えていくようにしたいものです。(栗山正隆)