2005年7月23日(土)「しんぶん赤旗」
主張
多発する労働災害
利益優先が命を危険にさらす
暑い夏は労働災害が多発するシーズンです。この三年余り、生産現場での災害が増加し、災害根絶が叫ばれながらも依然多発しています。
一度に三人以上の死傷者を出す重大災害は、昨年二百七十四件を数え、二十年前の二倍近い件数です。死亡者は昨年千六百二十人で、十年間に一万九千二百七十六人の尊い命が失われました。今年も昨年を上回る状況にあり、厚生労働大臣が、重大災害の防止を業界に緊急要請する事態になっています。
■重大災害今年も多発
鉄鋼、造船関係では昨年、三十七人が死亡し危機的状況といわれました。今年も五月末で十一人が死亡し、昨年を上回るペースです。
労災多発の根本には、行き過ぎたコスト削減と利益優先のリストラがあります。例えば鉄鋼大手の新日鉄は、一九八七年以来のリストラで、在籍従業員数が六万一千人余から、二〇〇三年度二万一千人余へと三分の一に激減し、従業員一人当たり粗鋼生産高は三・四倍も増えました。
現場では極限までの人減らしで熟練要員は少なく、安全技能も伝承されず、安全衛生部門の人員も減っています。利益優先で災害を増やした企業トップの責任が問われます。
業務の外注化や請負の拡大は災害増加の要因となっています。下請けに危険な作業をさせながら、安全確保の連携が不十分なため、災害発生率が親企業より二倍以上高くなっています。大企業は下請けに対する安全確保の責任を果たすべきです。
交通運輸の事故が相次いでいることも重大です。JR西日本の列車脱線、航空機のトラブル続発、トラックの多重衝突やバスの横転、タンカー衝突など事故が多発し、多くの国民が不安を感じています。
相次ぐ事故は偶然ではありません。交通運輸業界でも、コスト削減と効率優先、競争優先で安全を軽視する経営が横行しているからです。
JR西日本は、競争で優位に立ち「稼ぐ」ため、安全対策なおざりで列車スピードアップや人員削減を徹底してきました。JR西発足時に五万一千五百三十人いた社員は、〇四年四月に三万二千八百五十人へと36%も減少しました。今後五年間で四千百人を減らす計画ですが、事故後も計画を見直していません。
事業改善命令をうけた日本航空は、コストのかかる安全対策には消極的です。整備人員の増強や余裕のあるダイヤ設定、乗務員の適切な準備時間の確保を求める現場の声に対して、改善策は示されていません。
重大な災害を起こせば、企業も損害を受け、経営の存立基盤が揺らぎます。ILO(国際労働機関)は、安全衛生の措置は、安全な労働環境をつくるとともに「生産性そして競争力を向上させる」(労働安全衛生に関する決議)と指摘しています。
■安全守る社会的責任
この間、新日鉄の三村社長は「安全な職場をつくる」ことは「全てに最優先する『経営の大前提』」(年頭あいさつ)とのべ、JR西日本は「安全を最優先する企業風土の構築」を基本理念として掲げました。
言葉だけでなく安全最優先を実際に貫くのかどうかが問われます。
必要な要員の確保、安全衛生関連の法令厳守をはじめ安全対策を抜本的に強め、社会的責任を果たすことです。とくに現場の労働者の声を十分に反映させることが重要です。
政府がリストラを促進し、輸送の安全を確保する規制を緩和してきた責任も問われます。安全にかかわる規制は強化することを求めます。