2005年7月22日(金)「しんぶん赤旗」
難航するイラク憲法起草
治安悪化で委員射殺や辞任
宗教・女性の地位 内容でも対立点
【カイロ=小泉大介】八月十五日を期限にしたイラクの恒久憲法起草の進展が危ぶまれています。憲法起草委員会(定数七十一)のイスラム教スンニ派委員十五人のうちの二人と同委顧問が十九日に射殺され、二十日にはスンニ派の委員四人が辞意を表明したためです。他のスンニ派委員も近く最終的な態度を表明する見込みです。起草案の中身でも対立が残っているもようで、憲法起草の遅れはイラクの政治プロセスにも影響を与えそうです。
二十日に辞任表明したスンニ派委員は、その理由に治安情勢悪化と当局による警護態勢の不備をあげています。同派の政治組織、国民対話評議会のムトラク報道官は「現在は憲法の起草に適した時期ではない。このような状況のもとで仕事をつづけることは不可能だ」と表明しました。
憲法起草委員会は五月十日に発足しましたが、スンニ派住民の多くが一月末の暫定国民議会選挙を棄権した結果、当初はスンニ派委員は二人だけで、ようやく六月末に同派から十五人の参加が承認されました。スンニ派委員の警備が、イスラム教シーア派やクルド人に比べ手薄だとの不満もあります。
一方、憲法起草委員会のハムディ委員長は二十日、「ほとんどの基本点について合意ができた」と述べ、八月一日には草案を暫定国民議会に提出できるとの見通しを示しました。しかし、委員会では二十日現在も各委員からさまざまな草案が配布されているとの報道もあります。
憲法起草にあたっては、イスラム教を「法源の一つ」とするのか「唯一の法源」とするのか、また連邦制のありかた、とくに北部の油田地帯キルクークをクルド人自治区に帰属させるのかどうかなどをめぐり激論が交わされてきました。
米紙ニューヨーク・タイムズ二十日付は新憲法がイスラム法の強化により女性の権利を大幅に制限する内容になる見込みと報じましたが、イラクの女性団体からは「女性を二級市民におとしめるもの」との厳しい非難の声が上がっています。
スンニ派の有力組織、イスラム聖職者協会からは「占領下では憲法起草などできない」(ダーリ事務局長)と根本的な疑問の声も出ています。
バグダッドにあるムスタンスレイヤ大学政治学部のホダ・アルヌアイミ教授は本紙に対し次のように指摘しました。
「憲法は国家の基本方向を定める根源的な法律であり、徹底した議論が必要です。連邦制にしてもイスラム法の問題にしても極めて難題であるのに、わずか二カ月の実質協議で、しかもこれだけの治安悪化のなかで決着されようとしています。暫定憲法であるイラク基本法が起草期限の延期を認めているにもかかわらず、占領下で決められた政治日程に間に合わせることが最大の目的となるようでは、結局、米占領軍の影響の色濃い憲法とならざるを得なくなると危ぐしています」