2005年7月18日(月)「しんぶん赤旗」

審議入りした「共謀罪」

相談し合意だけで処罰

犯罪目的以外の団体も対象に


 「現代版・治安維持法」の異名をとる、とんでもない法案が衆院法務委員会で実質審議入りしています。罪を犯さなくても相談し合意しただけで罪に問われる「共謀罪」の新設を盛り込んだ組織的犯罪処罰法などの改悪案がそれです。同法案の問題点をまとめました。(橋本伸)

■組織的犯罪集団 限定全く無い

 第一の問題点は、もともとマフィアなど国際的に活動する「組織的犯罪集団」の犯罪防止のための法案なのに、「国際的かつ組織的犯罪集団」という限定がまったく無いことです。

 「共謀罪」は、二〇〇二年に「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下条約)の批准にともなう国内法整備を名目に創設されたものです。

 条約は適用範囲として、「性質上国際的(越境的)なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記しています。

 ところが、政府・法務省が提出した「共謀罪」にはそうした文言がありません。それどころか、適用対象とする四年以上の懲役・禁固に当たる罪は、六百十五種と広範囲に及びます。

 なかには不同意堕胎罪や、偽りその他の不正の行為による市町村民税の免脱罪など、どう考えても「性質上国際的」でもなければ、「組織的犯罪集団が関与」するはずのないものが多数含まれています。

■特定の集団を狙い撃ちに検挙

 国際的な要請は明らかに口実で、「なにかの『犯罪』の『共謀』を口実に、特定の集団を狙い撃ちに検挙することを広く可能とする仕掛け」(自由法曹団意見書)です。

 第二の問題点は「団体」の定義があいまいなことです。

 本来、暴力団など「組織的犯罪集団」と限定すべきなのに、どこにも「組織的犯罪集団」という規定がありません。「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」を処罰するとあいまいな規定があるだけです。

 これでは、団体が犯罪目的のものでなくとも対象にされてしまいます。労働組合、市民団体、宗教団体が少し強い行動の手段をとることを相談しても、「犯罪の共謀」とみなされて処罰の対象とされてしまいます。

 例えば、労働組合が「社長の譲歩が得られるまで徹夜団交も辞さない手厳しい団交をやると決めただけで、組織的強要の共謀罪になりかねません」(日弁連『共謀罪Q&A』)。

 第三の問題点は、「共謀罪」は、明白な犯罪行為あるいは被害がなくても、犯罪意思の合意があれば罪に問われることです。

 人が「悪い意思」を持ち、放っておくとこれが実行されるかもしれないことが犯罪とされるのです。

 現行刑法は、実際に犯罪行為が行われた場合に処罰することを原則としています。

 「本当に犯罪について話し合い、その実行を合意すること」は、たしかに「悪いこと」でしょう。しかし、「合意」しただけで「実行」しなければ、だれにも被害はありません。そういうことで罪に問われることになれば、結局、人の内心の状態だけで処罰することになり、刑法の大原則に反することになります。

 日本国憲法は一九条で「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と定めています。これは、「事実」よりも「思想」を処罰した戦前の治安維持法の反省に立って、内心の絶対的な自由を保障したものです。「共謀罪」はまさに現代版治安維持法です。

■盗聴法の歯止めなくなる問題も

 第四の問題点は、盗聴法の歯止めがなくなり、卑劣なスパイが横行する警察国家になりかねないことです。

 「共謀罪」は「意思の連絡」そのものを処罰するものです。このため、「意思の連絡」の手段方法が捜査の対象になります。室内会話、電話、携帯電話、FAX、電子メールなどが捜査の対象となります。捜査方法は盗聴やスパイの潜入ということにならざるを得ません。当然、盗聴法がどんどん拡大され、盗聴器があちこちに仕掛けられることになります。

 「共謀罪」は犯罪の実行着手前に、自首したときは刑が減免されることになっています。市民団体の中に取り締まり機関がスパイを送り込み、なんらかの犯罪を持ちかけ、同意があったと称して「自首」し、多くの関係者を罪に陥れるようなこともありえないことではありません。

 また、「団体の活動」がマークされます。公安警察による政党、労働組合、市民団体、NPO(民間非営利団体)などの活動に対する日常的な監視が著しく強化されることが予想されます。

 第五の問題点は、「共謀罪」に問われたさい、無罪の立証が非常に困難なことです。「共謀」とされた会話について、ほんの出来心からの軽口だとか冗談だと弁明しても、犯罪の発生以前に逮捕されてしまっている以上、本当にその犯罪を実行するつもりではなかったことを証明することなど、到底不可能です。

 アメリカの「共謀罪」は、犯罪の「合意」だけでなく、実際に凶器を買うなどの「準備行為」が開始されたことが必要とされています。

 ところが、法務省の法案は犯罪の「合意」だけで犯罪が成立することになっています。

 マフィアの犯罪防止は口実で、警察や検察の権限を大幅に強化、市民の人権を侵害する希代の悪法というべき代物といわざるを得ないものです。


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