2005年7月17日(日)「しんぶん赤旗」
首相の靖国参拝 内外に広がる批判
神社の戦争観に注目
小泉純一郎首相の靖国神社参拝に対する批判は、国内のマスメディアにとどまらず、保守政治家や海外メディアにも広がっています。日本共産党の不破哲三議長は五月十二日の時局報告会で靖国神社の歴史観、戦争観を示し、「『正しい戦争』論の最大の宣伝センターになっている」ことを告発しましたが、こうした“靖国史観”を問題にする論調も目立ちます。参拝中止を明言しない首相への包囲網のような広がりをみてみました。
国内から |
「軍国主義や侵略戦争を肯定する行為」
■メディア
五月以降、全国紙各紙は、「産経」をのぞいて首相の靖国神社参拝について中止を求める社説を掲げました。
「朝日」五月二十八日付は「世界に向けて言えるのか」と題した社説をかかげ、「東京裁判の結果を『ぬれぎぬ』と訴える靖国神社に首相が参拝することは、そうした主張にお墨付きを与える意味をもつ」と指摘。六月四日には、「読売」が「“犯罪人”として認識しているのであれば、『A級戦犯』が合祀(ごうし)されている靖国神社に、参拝すべきではない」と論じました。
その結果、首相の参拝を公然と支持する全国紙は「産経」だけとなり、同紙は六月七日付の社説で「読売の論調は、どこへ行ってしまったのだろうか」と「読売」を非難。七月四日付の「社説検証」でもあらためて「『読売』の路線転換」を批判しています。
この間、靖国の戦争観を問題にする記事や論評、ルポが相次いでいます。
『週刊東洋経済』七月九日号は、「小泉首相の靖国神社参拝 アジアの信頼損ない 国益にも反する」との記事を掲載。『靖国神社 遊就館図録』や同館の展示室の説明を紹介しながら、「アジア諸国民が受けた被害については死傷者の数をはじめとして、まったくと言えるほど記述がない。反面、『避けられぬ戦い』という表現で、天皇や日本政府・軍部による戦争の遂行を正当化している」としています。
そして、「こうした『靖国史観』が、中国や韓国をはじめとする多くのアジア諸国民にとって、容認しがたいものであることは言うまでもなかろう」とのべています。
中国新聞三日付などに掲載された共同通信配信の特集記事では、靖国神社のルポを掲載。遊就館の展示で侵略戦争をいかに正当化しているかを示したあと、「アジア諸国の犠牲者への言及や、日本を戦争に導いた責任についての説明は見受けられない」とのべ、「この神社の性格をひと言で表現するなら『戦前、戦中と地続きでつながっている場所』」としています。
地方紙でも参拝中止を求める社説が相次いでいます。高知新聞六月二十八日付は「靖国神社は戦前には国家神道の中心だった宗教法人であり、先の戦争の侵略性を否定するなどの立場に立っている」と指摘。首相が日本共産党の志位和夫委員長の追及に対して「靖国神社の考え方を支持しているわけではない」と答弁したことをあげ、「であるなら、参拝が過去の軍国主義や侵略戦争を肯定する行為と受け止められかねないことを厳しく認識してよいはずだ」と論じています。
「戦争犯罪人だと考えるなら なぜ行く」
■政治家
自民党内の有力政治家からも、小泉首相の靖国参拝の自粛・中止を求める声が出てきたのもこの間の特徴です。
十二日には、首相の靖国参拝に批判的な議員による「靖国問題勉強会」が正式発足。第一回会合には二十七人が参加しました。
同会の世話人代表を務める野田毅・元自治相は「朝日」インタビュー(六月二十二日付)で次のようにのべています。
「日本人自身が戦争責任をきちんと総括すべきだ。日本は戦後、東京裁判の判決を受け入れて国際社会に復帰した。それを堂々と否定することはできないはずだ。他方、靖国神社がA級戦犯を合祀した経緯をみれば、東京裁判の考え方を否定するために合祀した、とみることができる。その靖国神社に参拝することが、否定の論理に乗っかった行動と受け止められるのは当然だ」
野田氏は、六月二十日放送のラジオ番組でも「靖国神社は“不戦の誓い”をするところではない」とのべ、「国の命令でたたかい戦死した人をたたえ、神様にし、次に(戦争が)あった時にはまた頑張れとまつっている神社だ。戦災犠牲者や原爆犠牲者はまつられていない」と指摘。「小泉首相が再び戦争をしないため靖国参拝をしているという理屈は通らない」と批判しました。
中曽根内閣で官房長官を務めた後藤田正晴・元副総理は、小泉首相に対して「個人の信条と首相としての立場を混交している。驚いたのは、首相が国会答弁で『(A級戦犯を)戦争犯罪人と認識している』と言ったことだ。戦争犯罪人だと考えるのなら、なぜおまいりするのか。結果として、サンフランシスコ講和条約を守る意思がないということになる。いよいよ筋が通らないのではないか」とのべています。(「朝日」十三日付)
地方の首長からも声があがっています。橋本大二郎・高知県知事は六月二十九日の県議会で首相の靖国参拝について「やめられるに、こしたことはない」と表明。自らのホームページでも「結果的にA級戦犯に対しても敬意と感謝を示すことになる靖国参拝という行為に対し、この戦争で侵略を受けた国が異論を唱えることを、干渉という言葉で片づけてしまうことはいささか乱暴で配慮に欠ける」と主張しています。
海外から |
「過去への反省の拒否を象徴」
海外でも、米紙ニューヨーク・タイムズや仏紙ルモンドなど欧米の有力紙が、相次いで靖国神社の特異な戦争観に論及した大型記事を掲載しました。
■特集記事も
ニューヨーク・タイムズ六月二十二日付は靖国神社について「軍国主義の過去を再評価しようとする動きの象徴的中心」とその性格を描き出しました。
同紙の記事は、第四面の半ページ近くを使った特集記事。写真も右翼の宣伝カーが靖国神社に集結している様子や、同神社内の戦争博物館内部のものの二枚をあしらっています。
記事ではこの戦争博物館で上映されているビデオ「私たちは忘れない」を取り上げ、米国による戦後の占領を「無慈悲」と描き出しているが、日本自身によるアジアの占領にはふれていないと指摘。南京大虐殺についても、この博物館では、中国人司令官を非難し、日本のおかげで「市内では市民が再び平和な生活を送れるようになった」と主張しているとしています。
記事はまた、太平洋戦争の発端となった真珠湾攻撃について靖国神社が「米国は大恐慌からのがれるために、真珠湾攻撃を日本に強要した」と宣伝していることを大きく取り上げています。
この記事は、国際的英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンにも転載され、各国で読まれることになりました。
ニューヨーク・タイムズが報じた翌二十三日、今度は米国唯一の全国紙USAトゥデーが靖国神社をとりあげました。「東京の神社がアジア中の怒りの的」と題し、八、九面の見開き特集です。
記事では、過去の戦争を正しい戦争だったとする「靖国史観」に言及。靖国神社がそのウェブサイトで、真珠湾攻撃や中国、東南アジアへの侵略を「国の独立と平和を維持し、全アジアを繁栄させるために、避け得なかった戦争」と説明していると伝えています。
記事ではまた、小泉首相の靖国参拝にふれて、靖国神社が「アジアの最大の紛争地の一つ」となっていることを指摘。「数十年前に帝国日本軍に占領され、じゅうりんされた中国、韓国その他のアジア諸国は、小泉首相の挑戦的な靖国参拝が血塗られた過去へ反省を示すことを日本が拒否していることの象徴であるとみている」と断じました。
■欧州に広がる
靖国史観への批判が欧州にも広がったことを示したのは、仏紙ルモンド六月二十八日付の「アジア諸国や西側諸国の歴史家は靖国神社の見方を受け入れない」とした報道でした。同紙は靖国神社の博物館について日本の過去の戦争を「防衛戦争」「アジア人民の解放戦争」としているとずばり言い当てています。
同紙はさらに、侵略戦争についての日本政府の態度についても、「中国と韓国は日本の侵略と日本軍が犯した残虐行為を糾弾している」ことについて、「十年前、村山首相は(その怒りの)沈静化の一歩を踏み出した」が、戦後六十年の「今度はあいまいなままだ」としています。
こうした見方は、関係国の首脳からも表明されており、韓国の盧武鉉大統領は小泉首相との会談で、靖国神社について「過去の戦争を誇り、栄光のように展示していると聞いている」と述べています。
地方議会が中止求める意見書
地方議会からも首相の靖国神社参拝の中止を求める意見書があがっています。
東京・町田市議会では六月二十七日、「小泉首相をはじめ政府閣僚の靖国神社参拝の中止を求める意見書」を自民党以外の賛成多数で採択しました。意見書では、首相が四月のアジア・アフリカ首脳会議でおこなった「植民地支配と侵略」への「反省」とは逆に、国内外の批判に「開き直りの言動すら見せている」と批判。靖国神社のリーフレットも紹介しながら、「戦後も、戦争中と同様に『英霊の顕彰』をおこない、侵略戦争を正しい戦争だったと宣伝している」と指摘しています。
そのうえで、「靖国神社に首相が参拝することは、侵略戦争への反省と両立しない」「戦没者への追悼という気持ちを『日本の戦争は正しかった』という立場に結びつけることになる」として、首相はじめ全閣僚の参拝中止を求めています。
北海道・余市町議会や京都・向日市議会、大山崎町議会などでも同様の決議を採択しています。
また、高知市議会では、「戦争と植民地支配を反省し、中国・韓国をはじめとするアジア諸国との平和と友好の関係を大事にするというのであれば、少なくとも首相という日本を代表する公職についている限り参拝は自粛すべき」との意見書を賛成多数で可決。北海道・伊達市議会では、「小泉首相の頑(かたく)なな行動と言動が、これまでの歴代首相や経済団体、国民の間のアジア諸国民との友好関係構築の努力を壊しかねないことを深く憂慮する」と表明しています。