2005年7月17日(日)「しんぶん赤旗」
主張
共謀罪
相談・合意だけで処罰の危険
共謀罪を新設する組織的犯罪処罰法の改正案が国会で審議されています。一般に実行行為がなければ犯罪にならないというのが刑法の基本原則ですが、「共謀罪」は犯罪行為をしなくても、相談し合意しただけで処罰できるようにするものです。
犯罪行為だけでなく行き着くところは思想そのものを処罰対象とすることにつながり、市民団体や労働組合も対象にされます。国民の基本的権利を脅かす法案に「『治安維持法』再生許すな」という記事が一般紙に出るほどです(「毎日」十二日付)。
■市民団体、労組も対象
政府は、テロや麻薬売買など国境を越えた犯罪を防ぐ国際組織犯罪防止条約に加入するためだといいます。しかし、法案は国際組織犯罪にとどまらず、犯罪とは無関係なあらゆる団体の活動を対象にしており、きわめて重大です。
条約が適用範囲としているのは「性質上越境的」で、「組織的な犯罪集団が関与するもの」です。ところが法案は、この二つの要件を落とし「団体の活動」として「組織により行われた」ものを対象としており、条約とは大きな違いがあります。
共謀罪は、刑期が四年以上の犯罪を相談し、合意すれば最高五年の刑にされます。対象となる法律は、消費税法、水道法、破産法など国際的な犯罪集団とは無関係なものを多く含み、罪名は六百以上もあります。
例えば、労働組合が解雇撤回を求め、誠実に対応するまで団体交渉を行うと決議すれば、組織的監禁共謀罪で逮捕される恐れがあります。
マンション建設に反対する住民団体が、資材搬入を座り込みで阻止しようと決めれば、組織的威力業務妨害共謀罪で逮捕されかねません。
政府は国会で、市民団体や労働組合には「適用されない」と答弁していますが、法案は限定していません。
日本の刑法は、犯罪行為を処罰することが原則であり、犯罪の準備である予備行為でも処罰されるのは殺人など重大犯罪に限られます。だからこそ、政府も条約の制定過程では、共謀のみで処罰することは日本の刑事法の基本原則に反する、という立場を表明していました。話し合っただけで処罰の対象にされれば、市民の思想や言論・表現、内心の自由が侵される危険があります。
しかも、相談するだけで取り締まるためには、あらゆる団体を日常的に監視することが不可欠です。
盗聴法の乱用や改悪で市民の電話の盗聴をはじめ、会話やメールのやりとりも監視され、警察への内部通報者を育成して情報を集めるといった、無法な捜査が横行するでしょう。こんな監視国家はごめんです。
共謀罪を新設すれば、国民の言論・表現の自由やプライバシーが侵害され、市民団体や労働組合の正当な活動の権利が侵害されることは明らかです。憲法で保障された団体の活動まで、弾圧に道を開こうとするのは言語道断です。
■きっぱり廃案にせよ
国会審議では、与党議員からも「共謀罪の規定は条約と範囲が違うのでは、という疑いをぬぐえない」といった疑問と危ぐの声が出ています。
法曹団体、市民団体、労働団体など各界から「思想・表現にかかわる基本的人権への重大な脅威である」「監視社会への道を押し進める」など強い反対の声が広がっています。
憲法が保障する基本的人権、結社の自由、働く者の団結権、争議権などを侵害する恐れの強い法案を強行することは許されません。きっぱりと廃案にすることを求めます。