2005年7月14日(木)「しんぶん赤旗」
ロンドン同時テロ
英国イスラム社会に衝撃
「正当化できない」
【ロンドン=西尾正哉】ロンドンの同時テロの容疑者が警察によって特定され、英報道機関が人物の詳細を報じ、英国のイスラム社会に衝撃が走る一方、イスラム団体の指導者たちはテロを厳しく非難しています。
警察が特定した四人の容疑者はパキスタン系英国人でいずれも英中部ウェストヨークシャー州のリーズに住んでいた男性です。同州は隣接するイーストランカシャー州とともに繊維産業が盛んで一九五〇、六〇年代からパキスタンなどからの移民が増え、イスラム教徒が多いといいます。
英国での報道によると、地下鉄を爆破した三人のうち一人は二十二歳の男性で英国の伝統的なスポーツ、クリケットが好きだったといいます。別の一人は三十歳で、結婚しており九カ月になる子どもがいました。
バスを爆破したのは十九歳の青年で、テロのあった七日夜十時、家に帰ってこない息子を心配した親が警察に連絡していました。この連絡で警察は四人を結びつける端緒をつかんだといいます。
四人を知る人たちは、これらの人たちがテロを行うなんて信じられないと口々に語っています。二十二歳の男性をよく知る男性は「彼はクリケットをする物静かな青年だ。ほんの十日前に彼がプレーするのを見に出かけた。こんなことをするなんて想像もつかない」とガーディアン紙に語りました。
英国のイスラム教団体の指導者はテロ容疑者を非難する声明を出しました。
英イスラム教徒評議会のイクバル・サクレニー書記長は、容疑者が英国のイスラム教徒だったことを知り「苦悩だ。ショックを受け恐怖を感じた」と語り、「イスラム教の教えには爆破実行者たちの悪の行いを正当化するものは何もない」と強調しました。
イスラム人権委員会のシャジャレ議長は「犯罪性は、その国籍、民族性、宗教に関連しているわけではない。そのような関連付けは、完全に不公正で偏見を助長することになる」とBBC放送に語りました。
■イラク戦争で分裂の危機
英国では、アイルランド共和軍(IRA)による爆破テロなどが過去に頻発しましたが、自爆テロは初めて。西欧でも初めてです。
BBCのドミニク・カシアニ記者(地域社会問題担当)は、国内のイスラム教徒による犯行の可能性が強まったことを「最悪の恐れが現実になった」と指摘。イスラム社会の間でイラク戦争やブレア政権が進める反テロ法に怒りが広がり、一部は過激化していることから、英国社会が分裂していることに危機感を表明しました。
さらに、今後テロを機にイスラム教徒への嫌がらせや抑圧が続けば、「英国社会へのより深刻な影響が予想される」として、社会の分裂を戒め、統合を強調しました。
ガーディアン紙(電子版)十三日付は、ジョナサン・フリードランド氏の論評で、責任はイスラム教徒だけに向けられるべきものではないと指摘。イスラム教徒が社会との関係を絶たれ、政治的に関与する機会を奪われていることを問題点として挙げ、このことが「英国そのものへの挑戦」だとして、社会としての問題克服を提起しました。
同紙は別の論評で、同時テロによって負傷した七百人や、救急チームの中には多数のイスラム教徒が含まれることを強調。英国のイスラム教徒が国内各地で反テロデモを計画していることを紹介し、それへの参加を呼びかけました。(岡崎衆史)