2005年7月12日(火)「しんぶん赤旗」
主張
アスベスト
被害の救済と防止を徹底して
石綿(アスベスト)を取り扱った労働者が、がんやじん肺で三百五十人以上も死亡していたことが明らかになりました。被害は家族、周辺住民にも及び、不安が高まっています。徹底した実態調査と救済、被害防止の対策が急がれます。
■対策遅れが犠牲拡大
耐火・耐熱性のある石綿は建材、自動車部品などに広く使われ、とくに建材が九割を占めます。一九七〇、八〇年代は毎年三十万トン前後も輸入され、最近でも毎年数万トンを輸入し使ってきました。
花粉より細かい石綿の粉じんを吸入するとがんの一種である悪性中皮腫(ちゅうひしゅ)や肺がんなどを発症します。中皮腫は平均四十年前後も潜伏期間があり「静かな時限爆弾」とも呼ばれます。中皮腫による死亡者は今後四十年間で十万人にのぼるという予測もあります。
石綿による健康障害は、早くから知られ、がんとの関係も一九五〇年代には知られていました。しかし、職場の労働者も家族も、石綿の健康被害の怖さを十分知らされず、長期に危険にさらされました。
石綿を原因とする労災補償は、二〇〇三年に中皮腫八十三人、肺がん三十八人で、十年前の六倍に急増しています。石綿との関連が強いとされる中皮腫による死亡者は、九五年以降六千人を超えますが、認定は二百八十四人で5%にすぎません。
犠牲者がこれだけ広がったこと自体、企業と行政による安全対策の遅れと不備を示しています。
危険な石綿の吹き付け作業は一九七五年に原則禁止となりました。しかし、石綿の切断作業時の呼吸用の防護具、保護衣の使用が義務付けられたのは九五年からです。
欧州諸国では八〇、九〇年代に石綿の使用禁止が広がり、ドイツは九三年、フランスは九六年に原則禁止としたのに、日本で大量使用を続けたことは重大です。
九五年に毒性が強い青石綿、茶石綿の製造・輸入を禁止しましたが、製品の回収は行わず、白石綿は禁止しませんでした。〇四年十月から白石綿を使った建材などの製造は禁止ですが、全面禁止ではありません。
“安くて使いやすい”として、安全対策も不十分なまま大量に石綿の製造や使用を続けてきた企業と、危険性が分かっていながら長期に使用を認め、被害を放置してきた政府の責任が厳しく問われます。
これからとくに懸念されるのは、石綿を吹き付けた建物の改修・解体による被害です。石綿の飛散で、建設労働者や業者が危険にさらされ、住民への影響も心配されます。
これまでも石綿の飛散防止策に費用がかかることもあり、防護策が十分とられていない現実があります。阪神・淡路大震災でも建物の解体の際、石綿を除去しないで解体する例が相次ぎ、問題になりました。
石綿を吹き付けた建物解体のピークは二〇二〇年から四〇年ごろになるとみられます。今月から建物の解体時の被害防止策などを定めた予防規則が施行されました。対策を事業主に徹底し、防護策に必要な経費の補助も検討することです。
■実効ある対策が急務
石綿を取り扱ったすべての労働者と退職者、家族や周辺住民の実態の把握と健康診断、健康管理手帳の交付などの救済と補償、労災の認定基準の改善や医療機関への徹底が急務です。公共施設の石綿の除去も不十分であり、民間施設を含めて石綿使用の現状把握と安全な除去など実効ある対策が求められます。