2005年7月6日(水)「しんぶん赤旗」
振り込め詐欺 巧妙化
「本物の弁護士のよう」
行政書士もあやうく被害に
振り込め詐欺被害が依然として続発しています。「こちら社会部。」にも、被害の体験が寄せられていますが、内容はますます巧妙化して、「演技力」も磨きがかかっています。(藤川良太)
東京・板橋区在住の行政書士の男性(75)は、自宅の表札に幅広の白いテープを張っています。二人の子どもの名前を隠すためです。男性は「家族の表札も、詐欺集団にとっては情報源になる」といいます。男性をそこまで警戒させたのは、危うくだまされそうになった振り込め詐欺の体験です。「息子さんが電車内で痴漢をはたらいて逮捕されている」。男性宅に「鉄道警察官」を名乗る人物から電話があったのは六月三日。ちょうど鉄道各社が「女性専用車」を始めたばかりの時期です。
■弁護士会を即答
犯人の電話の態度は、もっともらしいものでした。息子の名前の漢字を字解きしながら読み上げ、住所とともに確認します。
息子の犯行状況については、二十一歳の女性に痴漢して、出来心でやったと泣いていると説明。「マスコミも注目している。かぎつけて記事にするかもしれない」とたたみかけます。男性の頭にマスコミにさらされる息子の姿が浮かびました。
次に登場したのが「弁護士」です。これまでの類似の犯行でも弁護士を名乗る手口はよくあります。しかし、国選弁護人を名乗って、「なぜ最初から国選弁護士がついているのか」と不審がられて発覚するケースがあります。今回の犯人は、「息子が依頼した弁護士」として登場します。
男性はとっさに「弁護士」の所属の弁護士会を質問します。犯人は「一弁(第一東京弁護士会)です」と即答。落ち着いた話しぶりで、「慰謝料の相場は百五十万円から三百万円」だと持ちかけてきました。
ベテラン行政書士の男性は、仕事上、弁護士と付き合いがあります。その男性からみても「重々しい口調は、本物の弁護士のようだった」といいます。男性は、いったんは示談に応じることを約束します。
■だんだん気付く
しかし、男性は被害に遭いませんでした。「いっぺんにおかしいと思うのではなく、時間とともにだんだんと気付いた」。(1)息子がいつも乗らない電車で痴漢したことになっている(2)「…でしょう?」と疑問のしゃべりが多い――などの疑問が広がりました。
電話を切った後、息子の妻に息子と至急に連絡を取るように指示。会社に息子がいたことで振り込め詐欺だと判明しました。
男性が被害にあいそうになった、いわゆる「オレオレ詐欺」は、警察庁の統計によると今年四月の判明分が四百四十五件。昨年の最高時に比べて四分の一と減少傾向にあります。
しかし、手口はますます巧妙化しています。昨年発生した「新潟県中越地震」でも、自衛隊員をかたり被災者の男性から三百万円をだましとった振り込め詐欺が発生しました。警察庁もポスターなどで振り込め詐欺への注意を呼びかけています。
行政書士の男性は、事件を振り返ってこういいます。「こちらの質問にも落ち着いて答えを返すなど、演技はうまく、手口は巧妙です。犯行を繰り返して、ますます悪知恵をつけているグループもあるので、十分に気をつけないといけません」