2005年7月6日(水)「しんぶん赤旗」

侵略戦争被害者への「戦後補償」

政府が解決するとき


 「戦後六十年の節目の年に戦後補償問題の解決を」――。日本の侵略戦争の被害者らが「瞳の黒いうちに解決したい」と法廷の内外で訴え続けています。この間、司法は一連の裁判でほぼ共通して被害事実を認定しました。しかし、補償については法的“壁”を理由にして退ける控訴審判決が続いています。司法にまかせず、いまこそ政府が問題解決を――。そんな声が強まっています。(本吉真希)

■被害事実を認めた判決

 今年三月から六月までに東京高裁で中国人戦争被害者の判決が五つありました。これらの判決はすべて原告の請求を棄却しましたが、被害の事実関係はほぼ認めました。

 山西省で起きた戦時性暴力事件についての二つの判決はそれぞれ次のような内容でした。

 ――旧日本軍の兵士らによる組織的拉致・連行、監禁状態で性暴力が繰り返しおこなわれた。これは「軍の戦闘行為と密接な関係にあり、国に賠償義務がある」(中国人「慰安婦」第二次訴訟)。

 ――性暴力の事実と旧日本軍の不法行為を認定。「立法的・行政的な解決を図ることは可能。被害者に慰謝をもたらす方向での『未来形の問題解決』が望まれる」と、政府の対応を求める異例の付言をした一審判決を維持した(山西省性暴力被害者訴訟)。

 遼寧省平頂山村の住民約三千人が日本軍に虐殺された平頂山事件訴訟の控訴審判決では…。

 ――「周囲から機関銃などで一斉に銃撃し、生存者を銃剣で刺殺するなどして住民の大半を殺害した」「住民の遺体をがけ下に集めて焼却した上、がけを爆破して遺体を埋め、周囲に鉄条網を張るなどして立ち入ることができないようにした」と認定。「精神的な傷跡を引きずりながら生活を送らざるをえなかった」と事件後の生活についても被害を認定した。

 また、南京大虐殺や七三一部隊の人体実験などの事件を扱った控訴審判決は事実に触れませんでしたが、「一審での事実認定を否定しえなかった」(原告側弁護団)。

 一審判決は南京大虐殺について「一九三七年十一月末から事実上開始された進軍から南京陥落後約六週間までの間に数万人ないし三十万人の中国国民が殺害された。『南京虐殺』というべき行為があったことはほぼ間違いない」。七三一部隊についても「細菌兵器の大量生産、実戦での使用を目的としたものであり、そのための『丸太』と称する捕虜による人体実験もなされた。その存在と人体実験等がなされていたことについては、疑う余地がない」と判示しています。

 中国人強制連行・強制労働の一連の事件を代表する劉連仁(リウ・リェンレン)事件では、東京高裁がさる六月二十三日に一審判決を覆し、原告敗訴判決を出しました。

 その判決でも、劉さんが「自らの意思に反して一方的かつ強制的に連行され」、「極めて劣悪な労働条件下」で働かされた、と認定。「その結果、(劉さんが)四五年七月三十日ごろ、鉱業所から逃走し、五八年二月九日に保護されるまで、約十三年間にわたって北海道の山野で逃走生活を送り、過酷な体験を強いられた」と判断。戦後も、逃走中の劉さんの「生命、身体の安全が確保されない事態は予測できた」とし、日本政府の「違法行為と評価せざるを得ない」としました。

■尊厳の回復と友好求め

 ここまで認定しても判決は訴えを認めません。

 不法行為の時点から二十年で損害賠償請求権が消滅するとする「除斥期間」の適用。明治憲法のもとで公権力行使で生じた個人の損害に対し、国は責任を負わないとする「国家無答責」の法理――などを壁にしているのです。しかし、それは絶対的なものではありません。

 劉連仁裁判の一審の東京地裁判決は、「除斥期間」の適用について「正義公正の理念に照らさなければならない」と指摘。劉さんの戦中戦後の被害をみれば、「除斥期間」を理由にすることは「正義公正の理念に反する」として、日本政府の賠償責任を認めました。「除斥期間」の壁に風穴が開いたのです。

 「国家無答責」の法理も、二〇〇三年一月の京都地裁判決では適用されませんでした。判決は強制連行・強制労働について「国家の公権力作用に基づく行為」ではなく、「旧日本軍による単なる不法な実力行使」として、「国家無答責」を適用しませんでした。

 しかし、控訴審では再びこれらが持ち出され、劉連仁裁判ではさらに「相互保証」というあらたな壁も。これは「外国人が被害者の場合は国同士の相互の保証があるときに限り適用する」という国家賠償法の規定を理由にしたもの。「相互保証を広く認める国際社会における解釈の大勢に逆行」(弁護団声明)しています。こんな状況を変えるには、日本政府の対応が決定的に重要です。

 最高裁の敗訴が確定した日本人の元シベリア抑留者は、当時の未払い賃金の補償を立法化による解決で訴えています。

 中国人強制連行・強制労働の被害者や弁護団も、基金の設立による事件の全面解決を訴えています。基金の一部は未来基金として、日中両国民の友好推進を目的にしています。ドイツは二〇〇〇年に強制連行・強制労働の被害者救済に向け「記憶・責任・未来」基金を創設しました。

 日本政府が判決で明確にされた侵略戦争の加害事実をきちんと認め、問題の解決に向けて行動をとる時期がすでにきています。戦争被害者は人間としての尊厳回復と日本との真の友好を望んでいるのです。


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