2005年7月4日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

早まる学生就職活動

「青田買い」どころか「種もみ買い」?


 大学のキャンパスではもうすぐ夏休みです。学生がウキウキしているかと思いきや、最近は様変わり。三年生や早い人では一年生からソワソワ、落ち着かないといいます。原因は、早くなる就職活動と就職対策にあるからです。(塚越あゆみ、藤川良太、矢野昌弘)

1・2年生から“Wスクール”

表

 法政大学人間環境学部の由美さん(二年生、仮名)がパソコン教室に通いはじめたのは二年生になってから。大学とアルバイトの合間をぬって週二―四回のペースです。通って一カ月半。由美さんはパソコン検定一級の資格取得めざして、これから一年半は通う予定です。

 由美さんを“ダブルスクール”に駆り立てるのは「このままだと何もしないで三年生になっちゃう」という焦り。

 「いま就職活動中のお姉さんがすごく大変そう。自分に“売り”や何かできるものがないと苦労するみたい。“これをがんばった”といえるものを一つつくらないと…。就活前になってあせりたくない」

 エステ業界を志望してエステの専門学校に通う学生。旅行会社を希望して旅行業関連の資格取得に精を出す学生。一年生ですでに秘書検定三級をとった学生がいる。

 こんな情報が由美さんの周りに集まり「資格とらなきゃ」という気持ちにさせます。「パソコンの資格は就職に有利らしい」との“アドバイス”にも心が動きます。

 “ダブルスクール”はいまや「あたりまえ」だといいます。

 ここ数年、主に三年生の夏休みを使って企業で就業体験をするインターンシップという取り組みが広がっています。六月二十一日、リクルート社が都内でインターンシップを希望する学生を対象に、受け入れ企業の展示と説明会を開催。首都圏の学生千三百人ほどが参加しました。

 学生はスーツ姿と普段着の半々。広告代理店や電機メーカーなど、学生の人気企業のブースにはたくさんの学生が企業の担当者の説明に聞き入ります。

 リクルート社の小笠原善典さんは「企業にとってインターンの目的は大きくいって二つ。認知度を高めること、優秀な人材に早くから目星をつけるといった目的があると思います。どちらに重きを置いているかは企業によってそれぞれ」といいます。

 「採用目的でインターンの受け入れをしています」とはっきりいうのはある製造業の担当者。「数回の面接だけで決めるのでなく、実際に一度働いてみて就職希望する人に来てもらうのがいい。実際、内定する人には当社でのインターン経験者が多い」といいます。

 参加者に聞きました。

 「業界研究も兼ねて企業を知りたいから来た」という慶応大学商学部の女子学生(三年生)は「OBの話だと、就活に成功した人は今ごろからやっていたと聞きます。早い企業では秋から就職試験を始めるので、秋までに自己PRを確立しなければ…」といいます。五月から就活をはじめた茨城県の法学部の男子学生(三年生)は、「今日は企業の人事担当者と仲良くなりにきた」と言い切ります。

インターン(企業体験)か研究かで悩む

 しかし学生には戸惑う声もあります。

 「講義の空きコマを使ってきた」という上智大学英文学部三年生女子(20)は、「将来、企業で働くつもりで、生の声を聞きたいと思ってインターンを希望しています。でも大学の勉強でまだまだ学べることはいろいろあるので、今の時期から企業の視点を持ってしまっていいのかなとも思ってしまいます」。部活のオーケストラの練習とインターンをどう調整するかが、彼女の目下の悩みです。

 インターンシップへの関心と参加する学生が増えたことで、学生と大学側の就職活動、対策も早まりました。それは昨年、就職活動を経験した卒業生も驚くほど。

 学生の就職活動は本来、大学四年生の七月から企業訪問を解禁、十月から正式内定といった流れが日経連(現経団連)と大学側の就職協定(一九九七年に撤廃)で決められていました。実際には「青田買い」と呼ばれていた抜け駆けが横行していましたが、いまや「青田買い」どころか「種もみ買い」ともいえる企業もあります。

 筑波大学の男子大学院生(22)は、うつむき加減に話します。

 「インターンで三週間とられれば、その分、自分の研究時間は削られる。研究がやりたくて大学院には入ったんですけど。体が二つあればいいんですけどね」

企画参加型などさまざま

 学生が企業で仕事を体験するインターンシップがここ数年、盛んになっています。企業と大学が連携、大学3年生の夏休みに実施するケースが多く、7月に募集が本格化。厚生労働省の推計で、昨年は12万人の学生が参加しました。

 企業によって、1日だけのものから数週間など。内容も実務アシスト型や企画参加型などさまざまです。

 日本経団連は全国の経営者団体の協力で、約5000社と大学を結ぶネットワークを整えました。大学側は心構えやマナーを養成するため半年程度をかけ、学生に一連の事前講義を実施しています。

 中小企業、業者の全国組織、全国商工団体連合会でも昨年からインターンシップの受け入れを開始。「自分の働く姿がみえてきた」と学生から好評です。


「内定のため」ではだめ

日本大学教授牧野富夫さん

 就職対策と活動が早くなっている現状を考えるとき、二つの面があると思います。

 就職というのは働くということです。それは人間の本質的な営みですから、早くから関心を持ち、職業意識に目覚めるきっかけをつくることはいいことだと思います。大学でも今年から、一年生を対象に十年先にどんな自分をつくるかのキャリアデザインを支援する基礎ゼミを発足させました。将来を考えたときに大学時代をどう過ごすか、何を学ぶべきか、逆算して考えるのはいいと思います。

 しかし、就職の内定を勝ちとるためのテクニックとして狭くとらえた対策や活動は歓迎できません。あふれる就職情報に、自分の基準を持たないまま振り回されるのはまずいことです。学生のみなさんには、問題意識をもって、基準をもってほしいと思います。

 九七年に就職協定を撤廃してからは、倫理憲章ということで毎年、企業側の申し合わせという形で規制していますが、いっこうに効果があがっていません。就職協定のころにも行われた「青田買い」と言われていた抜け駆けがおおっぴらに行われています。やるのであればもっと実効性のある公的規制にすべきです。

 長い目で見ると、大学の勉強途中で就活に駆り立てることは企業にとってもいいことではありません。しかし、それがわかっていながら、その観点にたてないのが目先の競争に埋没している企業です。


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