2005年6月29日(水)「しんぶん赤旗」

「警察に責任」 遺族ほっと

しかし娘は戻らない

明石歩道橋事件判決


 「主張が認められて安どした」「僕らがやってきたことは正しかった」――二十八日、兵庫県明石市の歩道橋圧死事件・民事訴訟の神戸地裁判決を受け、原告らはほっとした表情を見せました。

 提訴から二年八カ月。「遺族の主張する内容がほぼ認められた。なくなった十一人の姿が改めて脳裏に浮かんできた」。原告団長の下村誠治さん(46)は判決後の神戸市内での記者会見でこう語りました。

 二〇〇一年七月二十一日。花火大会を見に大蔵海岸に集まってきた大勢の家族連れ―。花火終了時に歩道橋にいた人は推定六千四百人。「群集なだれ」が起きたとき、幅一メートルあたり四百キログラムかそれ以上の圧力がかかったと事故調査報告書は指摘しています。

 警察は「観衆には自己防衛の責任がある」と責任のがれを主張しましたが、判決は、「安全を確保すべき注意義務を負う」と警察の責任を認めました。

 多田潤さん(43)は「主張を認められたのはうれしい。しかし娘たちが戻ってくるわけではない。判決を受け、警察、明石市、警備会社の三者が反省し、事故につながらないよう生かしていくことが大事」だと語りました。「JR事故も一緒。信楽高原鉄道事故を教訓にしていなかったことが背景にある。教訓とは、真摯(しんし)に自分たちの責任を受け止めることだ」

 記者会見では、一一〇番通報への対応やビデオモニターのチェックなど警察の対応のずさんさが改めて訴えられました。下村さんは「(警察は)十分な対応をしてきたというが、あやふやな内容ばかり。警察は真実を話していないと思わざるを得ない」と指摘。「署長、副署長にはもう一度証言台に立って真実を語ってほしい。ミスを認めなければ、再発防止などできません」といいました。

 ▼明石歩道橋事件 二○○一年七月二十一日夜、兵庫県明石市主催の花火大会で、会場の大蔵海岸とJR朝霧駅を結ぶ歩道橋に多数の観客が滞留し、大規模な転倒事故“群集なだれ”が発生。乳児を含む子ども九人と高齢者二人が圧死し、二百四十七人が重軽傷を負いました。元明石署地域官ら計五人が業務上過失致死傷罪で在宅起訴され、神戸地裁は昨年十二月、元地域官と警備会社元幹部に禁固二年六月の実刑、市元幹部三人に執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました(うち市の一人は確定、残る四人は控訴)。当時の明石署長と副署長は書類送検されながら不起訴となり、神戸検察審査会が起訴相当と議決したが、神戸地検は再び二人を不起訴としました。

 ■解説 「自主警備」論退ける

 「被告らの責任、とりわけ事前準備段階における責任は、極めて重い」――判決は、当日の警備の不備とともに、準備段階での三者の責任までふみこみました。

 事故の約半年前に同じ場所でおこなわれた世紀越えイベント「カウントダウン」で大混雑になり、事故を容易に予測できたのに、警察は暴走族対策を優先した警備体制を敷き、市は警備計画の策定を警備会社に丸投げし、計画の適否を検討もしないなど、ずさんな対応が事故を招きました。それだけに、真相究明と責任の明確化を求めてきた遺族の願いを受けとめた判決となりました。

 とりわけ、「雑踏警備は主催者の自主警備が原則」との警察の一貫した立場を、「警察の実施する雑踏警備は、主催者側の自主警備を補完するものに過ぎないと解すべきではなく、主催者側が自主警備を実施することにより、警察の雑踏警備に関する責任が軽減・免除されることはない」と退け、断罪したことは画期的で、今後の雑踏警備のあり方の変更を迫るものです。

 遺族十人の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の慰謝料を認定したことも注目されます。(兵庫県・喜田光洋)


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