2005年6月23日(木)「しんぶん赤旗」

戦争への嫌悪の高まりと「愛国者法」の修正――

「アメリカの軍国主義のほころび」 新原昭治


 数カ月おきに訪れているワシントンだが、この六月の強い印象は、イラク問題をめぐるブッシュ政権の苦境の深まりであり、戦争行為への米国民の嫌悪感の高まりである。

減った星条旗の数

 最近の一連の世論調査は、イラク戦争そのものを批判的に見る米国民が初めて過半数に達したことを示した。共和党からもイラクの米軍撤退に同調する議員が出ている。新聞はブッシュ政権が「クヮグマイア」(泥沼)に陥っていると書き立てており、ベトナム戦争を連想する国民が増えている。その心情は首都や周辺の街と住宅地で星条旗がめっきり減ったことでも見て取れる。

 ブッシュ政権にとり深刻なのは、イラクの軍事占領に不可欠な米陸軍の新規要員が集まらないことだ。五月分の実績は異例の発表延期のあと公表されたが、四カ月連続の目標割れで75%どまり。それも目標数字を作為的に下降修正しての計算で、実際は目標の60%そこそこだ。経歴書き換えなど数を追うための不正行為が横行し、全国の高校に新兵募集係が殺到して軋轢(あつれき)が生じている。教育現場で抵抗と非協力がひろがっている。湾岸戦争に従軍した一元米軍幹部は、「多くの親が中東全体を作り替えるというネオコンの戦争路線にこどもたちをつきあわせるわけにいかないと考え始めている」と発言している。新兵募集の行きづまりの意味を、友人のワシントンの大学の現代史教授は「アメリカの軍国主義の綻(ほころ)び」と指摘した。

読書の自由を守れ

 この状況下で注目を集めたのは人権侵害との批判が強い「愛国者法」の読書の自由抑圧条項への反発が、議会で目に見える形で結実したことだ。9・11直後ににわかに成立した愛国者法は図書館や書店での個人の読書傾向の捜査権限をFBIに与えた。図書館で個人の読書内容を捜査官が監視するのは一九五〇年代初めのマッカーシズム以来のこととされる。現にワシントン州の公共図書館でビンラディンの伝記を借り出した利用者全員のリストの提出をFBIが要求した事実が、USAトゥデイ紙により明るみに出された。

 その条項を発動できなくする修正案は、下院で二三八対一八七の圧倒的多数で可決された。昨年の下院では可否同数で不成立だったが、愛国者法の修正要求運動は全米規模でつづけられた。米国ペン・クラブ、全米図書館協会、全米書店連合会は共同で「読書の自由を守れ」の署名運動を展開し、ニューヨーク市議会やハワイ州当局をはじめ多数の自治体が同趣旨の声明を出した。

議会では一人でも

 自他ともに認めるこの運動の政治的指導者は、バーナード・サンダーズ下院議員である。ニューヨーク・タイムズ紙もワシントン・ポスト紙も一面で下院の採決結果を報じたが、両紙をふくめ他のどの新聞も「憲法の重要な権利を取り戻した大きな勝利」というサンダーズ議員の発言を引用した。同議員は人口の少ないバーモント州唯一の下院選挙区(定数一)で、共和・民主両党の対立候補を連続して破り選出されている米議会ただ一人の革新系無所属議員である。

 たとえ議会では一人でも、全米の民衆のたたかいと結び正論の実現に向けて状況を変えつつある彼の奮闘は、イラク問題でのブッシュ批判の新たな高まりとともに、活力と希望をひろげている。

 (にいはら しょうじ・国際問題研究者)


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