2005年6月20日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
林家たけ平(27)ただいま二つ目
落語にささぐ青春
「こぶ平」のネタにほれこんで
舞台にいるのは一人なのに、複数の人物を演じるさげ(オチ)つきの話芸「落語」。落語家の世界を素材にしたドラマ「タイガー アンド ドラゴン」(TBS)の人気で注目を浴びています。一生勉強といわれるほど奥深い大衆芸能の世界に飛びこんだ林家たけ平さん(27)に、生き様と芸への思いを聞きました。(小川浩)
先月、たけ平さんは「二つ目」に昇進しました。「前座のときは着流ししか着られません。二つ目になると、羽織とはかまが着られるんですよ」と顔がほころびます。
お金じゃない
ようやくプロの入り口に立ち、本格的な芸の道を歩み出しました。当然、目標は「真打」です。
「甘いかもしれないけど、お金じゃないなと思ったんです。一番、個性を発揮できると思ったし、好きなことをやろうって思いました」
前座時代は二年十一カ月。仕事は寄席(劇場)の裏方でした。先輩たちの羽織とはかまのたたみ方、お茶の好みと出すタイミング、高座(舞台)に登場するときのおはやしまで。それぞれの好みに仕上げなければなりません。
メモはしますが、見るひまがない忙しさのため、すべて頭にたたきこみます。昼の部、夜の部通してやっていました。
一日中寄席での雑用。空いた時間は落語のけいこです。自分の自由になる時間は、ほとんどありませんでした。
まだ、「十八番(おはこ)」といえるはなし(ネタ)はありませんが、持ちネタは十六本、けいこ中は三本です。
二十八日は池袋演芸場の夜席で、来月三日は上野・鈴本演芸場の早朝寄席に出演が決まっています。
新しい息吹を
たけ平さんが生の落語をはじめて見たのは、小学校の低学年のころ。おじいさんに連れられて入った所は、東京・上野の鈴本演芸場でした。おはやしがなり、着物を着た人が必死に話す姿を見て「不思議な空間でした」と振り返ります。
その後は、落語とは無縁の生活でした。大学入学後、時間をつぶそうと思い、ふらっと入った東京の浅草演芸ホール。高座に上がっていたのは、林家こぶ平さん(現・正蔵)でした。はなしは、古典落語でこぶ平さんの十八番・「新聞記事」。
「おもしろかったんです。テレビとは違う芸人らしさが、かっこよかった」。それからは、「こぶ平」の追っかけになりました。「新聞記事をまた聞いたんですよ。また、おもしろかった」。心底、師匠の芸にほれました。
もともと、いまどきのテレビ番組をおもしろいとは思えず、相撲や歌舞伎など伝統文化を肯定的に見ていました。落語を見るきっかけをつくった、履き物をつくる職人のおじいさんからは、「手に職をつけろ」と言われていました。そんなことから、落語を「商売」にしたいという思いが膨らんだようです。
そして「同じ苦労をするなら、この人だ」とこぶ平師匠の門をたたきました。一回目は「もう一度考えなさい」といわれ、決心はぶれていないか試されました。二回目は親を交えて話し合い、入門が決まりました。
こぶ平師匠は、たけ平さんにこう言いました。「生き方しか見せられないよ」
落語家には決まった月給はありません。高座に呼ばれなければ「商売」にはなりません。そのため、芸を磨こうと二つ目だけの早朝寄席を開き精進しています。
「古いものはそのままにしていれば、古いまま。古典落語に新しい息吹を入れたいという気持ちになってきた」
熱心・まじめな働き者
林家正蔵師匠の話 前座のころからとても熱心、そしてよく気がつく、まじめな働き者です。少々、繊細なところもありますが、これからはもっともっと幹を太くして、竹のようにすくすくと伸びてもらいたい。ごひいきのほど、よろしくお願いします。
林家たけ平 本名・草野武史。1977年10月生まれ、27歳。東京・足立区出身。私立・東海大学を卒業後、2001年、こぶ平(現・正蔵)に入門。翌年、前座となり、「林家たけ平」に。今年5月、二つ目に昇進。
見習い 入門したばかりの若手。師匠の家で、前座の仕事や行儀作法を覚えます。寄席の出入りは許されていません。
前座 落語協会に所属し、寄席の出入りが許されます。寄席の裏方や師匠たちの身の周りのお世話をします。
二つ目 落語協会の席亭会議で理事が選出します。高座(舞台)に上がることが許されます。勉強を兼ねた「独演会」をやり始めるのはこのころ。
真打 師匠と呼ばれる身分です。寄席のとり(プログラムの最後)を取ることができます。
お悩みHunter
高校卒業して一浪中失敗したらと不安に
Q 高校を卒業して一浪中。いま、がむしゃらに勉強しています。今度がだめなら、進学を断念するよう、親に強く言われているからです。でも、ジレンマに陥っています。これじゃ合格するためだけの勉強じゃないか。何のためになるんだ…と。また失敗するんじゃないか、という不安もでてきて病気になりそうです(浪人中、男性。東京)
「内的成長」を遂げた証し
A わかるなあ、その先の見えない不安やジレンマ。私など、もう四十年も昔なのに、いまだに鮮やかによみがえります。
でも浪人して勉強に打ち込み、なぜ学ぶのか、生き方を誠実にじっくりと考え始めたからこそぶつかった悩みです。あわただしい現役時代では、体験できなかった、浪人生の“特権”ともいえます。
ただ、この問いには正解はないかもしれません。大学へ進んでも、就職しても、人生にひたむきで心優しい人ほど、「何のために」と悩むからです。
でも私たちが、精神的に豊かに人間らしく生きるためには、このような苦悩を避けて通るわけにはいきません。ですから、こうした不安が頭をもたげてきたこと自体、あなたが、現役時代とは比較にならないほど「内的成長」を遂げた証しなのです。
まずは、そうしたご自分の成長を、しっかり認めホメてやりましょう。自己肯定できると元気になれます。
問題は、これらの問いとの付き合い方でしょう。読書は、その一つです。あなたの問いを整理し、解決へのヒントを与えてくれるかもしれません。こうして思い悩むこと自体が、自分の感性と感受性をすでに豊かにする“学び”なのです。受験勉強の参考書や問題文にさえ、あなたが求めている「人間」や「社会」に関する真実が詰まっているかもしれませんよ。
教育評論家 尾木直樹さん 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。