2005年6月20日(月)「しんぶん赤旗」

タクシー規制緩和で3割増

年収は激減 200万円前後

仙台にみる

運転手 「人生設計壊される」


 小泉内閣による、タクシーの新規参入や増車を容易にする三年前の規制緩和政策の結果、車両数が一・三倍になった仙台市。全国最高の増車率は、極端な運転手の収入減や労働環境の悪化、事故の増加などをもたらしています。同市のタクシー運転手らは二十三日、国の誤った政策を告発し、減収分の国家賠償を求めて提訴することに。いま、仙台のタクシー業界は――。(吉武克郎)

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国分町に面する大通りでの二重駐車。付近は渋滞=仙台市

 金曜日の夜十時、仙台一の繁華街・国分町。中心の通りは、客を待つタクシーが二車線の片側をふさぎ、事実上の一車線と化しています。接する大通りにはタクシーが二重、三重に停車。付近に渋滞を生んでいます。

 ふと、背広姿の男が、交差点付近のタクシーの窓をたたきました。客かと思いきや、警察官。駐停車違反の取り締まりです。罰金一万二千円は、運転手の自己負担。白髪交じりの男性運転手は、不満を隠さず、記者に話しました。

解雇された会社員ら街でしのぎを削る

 「こっちも生活がかかっている。好きで違反してるわけじゃない。みんな罰金覚悟で、必死に客を奪い合っているんだ」

 不況で解雇された会社員や離農した米農家、廃業した自営業者、漁業の衰退で仕事が減ったトラック運転手…ベテラン運転手に加え、それぞれの事情で転職した新人らが、街でしのぎを削っています。

 二〇〇二年の規制緩和実施前は二千六百五十四台。今年三月末は三千四百六十六台―仙台市内のタクシー台数です。約八百台も増えた結果、〇一年には一日一台あたり三万六千円ほどあった営業収入は、〇四年前期には二万八千円にまで激減(宮城県タクシー協会調べ)。規制緩和による過当競争は、運転手とその家族の人生設計を容赦なく破壊しています。

 「前は三百万程度の年収はありましたよ。いまは? 恥ずかしいから、聞かないでくださいよ。…月に十一、二万です。老後の蓄えどころじゃない」(五十代男性・運転手歴十年)

 「年に四百万は稼いでいたのが、いまは二百万ギリギリですよ。結婚二年目ですけど、子どもなんて、とても無理」(三十一歳男性・同九年)

 高校三年の息子と一年の娘をもつ、運転手歴十年の五十三歳の男性は、こう話します。

 「妻がパートで年に百万稼いで、夫婦で年収三百万。私が月に十二回、毎回二十時間近く乗務してですよ。息子は『勉強は嫌だから大学には行かない』と言ってますが、本心はどうなのか…」

 仙台駅前には、常時百台ほどのタクシーが待機しています。新しく来た車が客を乗せて発車するまでの時間を計ってみました。午後二時に来た車が出たのは、五十分後。運転手たちは「繁華街でも、一時間待ってワンメーター(六百五十円)なんてよくあること」と話します。

営業収入は会社と折半する完全歩合制

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約100台のタクシーが並ぶ仙台駅前。客を乗せるまで1時間近く待つことも=仙台市

 運転手の多くは、営業収入をだいたい会社と折半する完全歩合制。全国自動車交通労働組合総連合会宮城地方連合会(自交総連宮城地連、相沢道彦委員長)は、こんな調査をしています。標準的なタクシー並みに違法停車や超長時間乗務をした車と、法令を順守した車では、一日にどれほど営業収入が違うのか。四月に行った結果では、前者は約二万八千円、後者は二万三千円。この差は大きく、生活のためには危険を冒さざるを得ない現実があります。

 無理を重ねての運転は、事故につながります。宮城県内のタクシーの人身事故は、〇一年の三百一件から〇四年は三百九十九件へと32%増。全国平均の3%増と比べ、突出しています。

仙台市の生活保護モデル基準に及ばず

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東北運輸局前で抗議の座り込みをする自交総連組合員たち=4月20日、仙台市

 〇一年に二百八十万円だった宮城県のタクシー運転手の平均年収は、毎年二十万円ほど減り続け、〇三年は二百三十八万円(厚生労働省賃金センサス)。〇四年は二百万円強になるとみられます。仙台市の生活保護モデル基準の三百三十七万円にも及ばず、最低賃金(時間額六百十九円)を割るケースも。自交総連宮城地連の調査では、一時間あたり四百十七円という例もありました。

 五月に日本共産党の大門実紀史、仁比聡平両参院議員が仙台に調査に訪れた際、県タクシー協会の佐々木昌二会長は、こう話しています。

 「タクシーには公共交通機関としての役割がある。一生懸命に働いた運転手には、ちゃんと家族を養えるようにしなくては。そのために、あらゆる知恵をしぼりたい」

 自交総連宮城地連は、六十九人が原告となり、収入減は国の誤った政策のためだとして、二十三日、総額約一億円の国家賠償請求を提訴する予定です。

 原告らの平均年収は約百八十万円。石垣敦書記長は、こう話します。

 「規制緩和後、わずか三年で百万円近く平均年収が減るとは尋常ではない。再三、運輸局などに対策を求めてきたが、国策だからと、らちが明かない。国の責任を問うため、提訴に踏み切る」

 仙台のタクシー過剰問題は、県タクシー協会による、増車を規制する「逆特区」申請が国に却下された経緯があります。小泉内閣の失政が、司法の場では、どう裁かれるのか。行方が注目されます。


 タクシーの規制緩和 二〇〇二年の道路運送法改定により、区域ごとの台数制限が撤廃され、新規参入や増車も容易になりました。全国では、〇一年の二十五万六千台から、〇四年までの間に一万三千台増えています。

 県別の増加率は、宮城が一位で15・1%。増車は仙台市内に集中しています。二位は石川、三位は岡山(国土交通省資料から)。


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