2005年6月2日(木)「しんぶん赤旗」
日勤教育
恐怖だけ残った
黙ってないで声あげる
JR福知山線の脱線事故のJR西日本が五月三十一日、国土交通省に提出した「安全性向上計画」には見せしめ的な「日勤教育」が問題になった教育・指導のあり方の見直しも盛り込まれました。事故直前に日勤教育を受け、「食事がのどを通らなかった」という青年運転士Aさん(24)は会社や組合の対応に疑問を感じ、一日、「たたかう労働組合の一員になりたい」と国鉄労働組合(国労)に加入しました。
JR西 青年運転士が「たたかう労組へ」
事故当日、故高見隆二郎運転士(24)の車掌時代の処分歴まで公表し「置き石脱線説」を持ち出したJR西。Aさんは「また個人を切り捨てて、会社は責任逃れするのか」とその体質に嫌気が差したといいます。そして「これまで会社にちゃんとモノを言ってこなかった組合にも腹が立ってきたんです」。
「運転士が大好き。誇りと責任感を持ってやってきた」というAさん。ところが会社が運転士に要求したのは、余裕のない過密ダイヤをロボットのようにただ走ることでした。そしてミスはすべて個人の責任。Aさんは「高見君がすべてを背負って『これでいいのか』と世間に投げかけたように思えた」といいます。
高見運転士が受けた十三日間の日勤教育。Aさんも四月に受けたばかりでした。「オーバーランした高見君は、また日勤かと頭が真っ白になったのではないでしょうか」。日勤教育に話が及んだとたんAさんの顔が曇りました。生つばを飲み込み、うつむいて苦しげです。
日勤教育の机は運転士が出入りする詰め所のカウンターから目立つ場所にありました。上司は「みんなの前で恥ずかしく思ったか」。Aさんは「やっぱりそれが目的なんやと思った」と。
十日間で書いたリポートはA4判で約三十枚。ミスの原因に「運転士としての責任感がなかった」と書くまで何度も書き直しを命じられました。「自分の本心と違うことを書くのが一番つらかった」とAさん。「性格の弱点」など業務とは関係のないことまで書かされ、精神的に追い詰められました。夜中に何度も目が覚め、食欲も落ちてスリムな体がさらにやせてしまいました。
「日勤で自分にプラスになったことはまったく思いつかない」というAさん。「残ったのは『次にミスしたら…』という恐怖だけ」といいます。
JR西の「安全性向上計画」には、ゆとりあるダイヤの見直し、自動列車停止装置(ATS)の整備などとともに、教育の見直しも掲げられました。Aさんは「安全性向上計画は実際に運転している者の意見を踏まえ、本当に実効あるものにしていかないと犠牲者の方々や高見運転士が報われない。そのために黙って過ごすのではなく、意見を出して会社をよくしていきたい」と語っています。