2005年5月27日(金)「しんぶん赤旗」
郵政民営化関連法案への
塩川議員の質問(要旨)
衆院本会議
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日本共産党の塩川鉄也議員が二十六日の衆院本会議で、郵政民営化関連法案についておこなった代表質問(要旨)は次のとおりです。
そもそもなぜ郵政事業を民営化する必要があるのか、最も根本的な問題について総理はいまだに国民に納得できる説明をしていません。
国民にとって郵便局は身近にあって便利な存在です。郵便局は貯金や年金の受け取りなど国民生活に不可欠なサービスを全国あまねく提供しています。また土日でもATM手数料がかからないなど現在の郵便局のサービスを多くの国民が評価しています。現に有効に機能している郵便局システムを解体し、なぜ民営化する必要があるのでしょうか。
政府は民営化の理由として郵政事業が肥大化して民業を圧迫しているといったり、現行のままだとジリ貧で郵政公社がたちゆかなくなるから民営化が必要だというなど、百八十度違う支離滅裂な説明をしています。国民は理解できません。
多くの国民が「身近な郵便局がなくなるのではないか」と懸念し、四十七都道府県議会をはじめ、ほとんどすべての地方議会が民営化に反対する意見書を採択しています。
利便性下がりメリットなし
本法案は「民間にできることは民間にゆだねるべきだ」という小泉総理の主張に基づき昨年九月に閣議決定された「民営化の基本方針」の実行を目的としています。そこでまず「基本方針」で掲げる民営化の三つのメリットについて聞きます。
「基本方針」は民営化の第一のメリットとして、「利便性の向上」をあげています。しかし、民間では利益のあがらない店舗を撤退しているのに対し、郵便局は、過疎地にも店舗を維持しサービスを提供し、民間にできない全国一律サービスを行っているのです。利便性が向上するという理屈は成り立ちません。
第二のメリットとして、郵政公社を民営化すれば納税の義務が生じ税収入が増えるといいます。しかし現行の郵政公社は、利益の五割を国庫に納付する仕組みになっており、法人税より高率です。民営化の方が国の収入が増えるというのはまったく根拠がありません。
第三のメリットとして、特殊法人等への資金の流れが変わることをあげていますが、これは政府が無駄遣いをやめればすむ話です。結局、何のメリットでもありません。
ネットワークずたずたに
以下、法案にそくして質問します。
第一は金融の全国一律サービス(ユニバーサルサービス)を投げ捨て、郵便局ネットワークをずたずたにするものだということです。今回の法案は、これまで金融のユニバーサルサービスを提供してきた郵便貯金事業、簡易保険事業から、その義務づけをなくすものです。これでは郵貯銀行・郵便保険会社が郵便局でサービスを提供するかどうかは、経営判断にゆだねられることになるのではないか。
郵便局の方にも必ず金融サービスを提供しなければならないという義務付けはありません。すべての郵便局で郵便貯金や保険のサービスが受けられるという保証がいったいどこにあるのか。
郵便貯金銀行と郵便保険会社の全株式を処分して「完全民営化」するまでは、郵便局でサービスを提供する代理店契約を義務づけるとしています。しかし、その義務づけがなくなる二〇一七年四月の「完全民営化」以降は経営判断で撤退可能になるのではないか。
政府は、過疎地の郵便局で金融サービスを維持するために、一兆円の基金を日本郵政株式会社に積み立てることを義務づけ、その運用益百二十億円を郵便局会社に交付するとしています。それで郵便局が現在提供している郵便貯金や保険サービスを維持できる保証はどこにあるのか。
新たなコスト負担は利用者
第二に、国民・利用者負担の増加とサービス低下の問題です。分社化したことによって、郵貯銀行や郵便保険会社は業務の委託費を手数料で支払うことになり、この手数料発生に対して消費者が負担すべき税金である消費税が発生します。この新たな国民負担額はいくらになるのか。
民営化で郵便貯金には預金保険料という新たなコストが発生し、郵便保険会社には負担金が発生します。郵便貯金銀行や郵便保険会社が新たに支払うことになるこれらのコストはいくらになるのか。郵政公社を分割民営化することで新たに発生するコストを最終的に負担するのは国民利用者にほかなりません。銀行より安い郵便貯金の手数料が値上げされない、銀行並みにならないという保証はどこにあるのか。
現在の郵政公社でも指摘されているサービス低下がさらに加速することになるのではないか。普通郵便局によせられた誤配など市民からの苦情は現に増えているのではないか。郵政公社は、昨年十月から十二月のわずか三カ月のサービス残業調査で五万七千人、三十二億円にのぼるサービス残業が行われていたことが明らかになっています。不払い労働により現実のサービスが提供されていたのです。民営化で人員削減を強行すれば、労働条件を悪化させるだけでなく国民へのサービスがいっそう低下することは明らかです。
制度設計の根幹も示さず
第三に、今回の法案は民営化後の制度がどうなるのか、制度設計の根幹さえ明らかになっていない欠陥法案です。
一つは、郵便局の設置基準です。郵便局会社法案第五条で郵便局の設置基準は省令で定めるとしていますが、その基本すら明らかになっていません。過疎地では現に存するネットワークを維持するということが四月四日の政府の「骨子」で示されているだけで、その「過疎地」の定義もそれ以外の基準も示されていません。これでは郵便局会社にはいくつの郵便局の設置義務が課されるのか分かりません。法案審議の前提として、政府は省令案を示すべきです。
二つめに、二〇〇七年の民営化後は、郵便局が郵便貯金業務を行うためには銀行代理店となることが必要です。しかし、銀行代理店に兼業を禁じている現行の銀行法の規定のままでは、そもそも郵便局は銀行代理店となれずに郵便貯金サービスを提供できないではありませんか。規定を一体どう改めるつもりですか。
それによっては銀行代理店となれず、郵便貯金サービスが提供できない郵便局がいくつも誕生することになります。こんな重大な内容がなぜ示されないのですか。
銀行代理店となった郵便局の業務に問題があった場合、金融庁はこれらの代理店に対して、現行の銀行法では業務改善命令を出すことができないのではないか。
三つめは、新しく設立されるそれぞれの会社の職員配置の問題です。法案は職員が新会社に引き継がれることは示されていますが、それぞれの会社は何人の職員を持って発足することになるのか明示されていません。四十万人にのぼる郵政労働者の配置基準も示さずに、どうして民営化会社の経営基盤を判断することができるでしょうか。
政府が掲げた民営化の論拠は、本格的審議を前にして、ことごとく崩れています。国民にとって「百害あって一利なし」、こんな法案は撤回・廃案以外にないことを強調し質問を終わります。
小泉首相の答弁
【民営化のメリットについて】郵政改革は郵便局をつぶすものではない。全国にあまねく郵便局を設置することを法律上義務付けている。新会社の法人税を含めた納税の義務を課すことにより国、地方の税収が増え、株式の売却収入で財政再建に役立てる。資金の流れを官から民へ変えるには入り口の改革、郵貯、簡保の資金を民間部門に流れていくようにする必要がある。
【利用者負担、サービス低下問題】郵便貯金銀行と郵便保険会社の窓口委託手数料にかかる消費税は約七百億円、郵便貯金銀行が支払う預金保険料は四百億円、郵便保険会社が負担する生命保険契約者保護負担金は十億円だ。ATM手数料などは新会社の経営判断だ。
【郵便局の設置基準】過疎地については現在の郵便局ネットワークを維持する。都市部も配慮する。過疎地の定義は、過疎地域自立促進特別措置法を基本とする。
【貯金銀行の代理店問題】郵便局会社が郵便貯金サービスを提供するには手当てが必要だ。内閣府令で盛り込む。