2005年5月25日(水)「しんぶん赤旗」
JR脱線 学生プレスが“命”取材
「名前忘れないで」思い伝え続ける
「忘れられたら本当に悔しいだろう。伝え続ける」―。兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故が発生してから25日で1カ月。同事故は、16大学、24人の学生の命を奪いました。関西11大学の学生新聞サークルが加盟する「関西学生報道連盟」(大阪市淀川区、約40人)は「仲間のためにも事故を風化させない」と事故の取材と報道を続けています。
同連盟の代表・坪内雄佑さん(21)=京大法学部三回生=は友人からのメールで事故の第一報を知りました。「学生に被害は出ていないのか。授業への影響はないか。大学の対応はどうか」。すぐに取材の指示をメールで送りました。翌二十六日には三人の記者を現場に派遣して写真を撮りました。
■号外を発行
「学生だけで十一人は亡くなっている」。影響の重大さに号外の発行を決めました。二十七日、二千部を印刷して亡くなった学生が出ている同志社大、京都女子大、関西大で配布。坪内さんらは「連盟が結成されて十五年になりますが、事故での号外発行は初めてです。学生の目線で人の命の大事さを伝えたい」といいます。
取材する学生も心に傷を負いました。「同じ学科の先輩が亡くなりました。先輩は博物館の学芸員になりたいという夢がありました。身近な存在でしたし、悲しくて残念です」と涙ぐむのは京都女子大の木村美春さん(21)。「大学と学生あてに、亡くなった先輩のお父さんから手紙がきました。『娘の名前を忘れないでいてほしい』とありました。人は忘れられたときに本当に死んでしまいます」と報道し続けることを誓っています。
「書くことをやめてしまったら風化してしまう。伝え続けることで二度と起こさないことになるのではないか」と話すのは立命館大の産業社会学部三回生・黒河内政行さんです。
三人が死亡、二十四人の重軽傷者を出した同志社大。二十一日に発行された「同志社大PRESS」は一面で事故の特集を組みました。学生支援センターが決めた「就学上の支援策」の紹介、精神面のケア体制、欠席届、代筆、ガイドヘルプなどを支援する学生ボランティアの紹介などを伝えています。
編集に当たった宮原さんは「亡くなった三人の中にはこの春に入学したばかりの仲間もいました。これからだったわけで夢を奪われて残念。つらいです。私も家族を亡くす体験をしました。母が『大丈夫。巻き込まれていない』と切羽詰まった声で電話をかけてきたことを忘れずに伝え続ける」と話しています。
■遺族の声を
代表の坪内さんは「阪神大震災で百人以上が犠牲になった学生の遺族の手記を募った経験があります。この経験を生かし、遺族の声を報道する予定です」といいます。
「僕らはプロじゃない。一線を超えて遺族の心の中まで踏み込んでいいのか―。議論しているところです。時間がかかってもなぜこんなに学生が殺されてしまったのか、取材し続けます」