2005年5月25日(水)「しんぶん赤旗」

主張

ホワイトカラーの労働

残業代を奪い取る財界の野望


 ホワイトカラー労働者を、労働時間規制の適用除外にする方向について、厚生労働省の研究会が検討をはじめました。「自律的な働き方への対応が求められている」というのがその理由です。

 労働基準法では、労働時間は一日八時間、週四十時間、残業すれば割増賃金を支払うことを定めています。この規制を外せば、労働者は「自律的」という名目で際限なく働かされ、残業代も出なくなります。

過労死を生む異常な働き

 政府は規制改革・民間開放推進三カ年計画で、海外事例を調査して、この制度の採用を検討するよう求めていました。二十日の研究会で調査結果が報告されました。

 調査した米英仏独の四カ国で、ホワイトカラーを広く時間規制から除外しているのはアメリカだけです。

 アメリカは、管理職と管理や事業運営全般に直接関連するオフィス業務などの運営職、専門職が適用除外です。賃金は週給四百五十五ドル以上が要件ですが、月収二十万円程度です。日本に当てはめれば、ホワイトカラーの多くが対象となります。

 アメリカでは、適用除外による残業代不払いが問題になり、訴訟が著しく増えました。ブッシュ政権が昨年、除外対象をさらに広げる改悪をしたため、六百万人が残業代を奪われると労働組合は批判しています。

 世界でもアメリカだけの特異な制度を、異常な働き方が横行する日本に導入する理由はありません。

 そもそも日米両国では、前提条件が大違いです。アメリカでは、経営者の違反にたいし労働者は、不払い残業代に加え、同額の付加賠償金の支払いを請求できます。行政機関の労働省は、違反に対する罰金を命じ、労働者に代わって割増賃金の支払いを求める訴訟を起こせます。

 日本では、違反しても企業は残業代さえ支払えばすみ、罰金はつきません。「ルールの徹底を図るためのしくみは、アメリカより弱い」(報告書)のが現実です。

 アメリカのホワイトカラーは長く働いても休暇をきちんと取ります。

 しかも、過労死するような働き方を強いる会社からは転職するので、「使用者も人材確保のためにはそのような働き方を強制できない」状況です。日本では「退職という手段によって長時間労働を回避することが容易でない」と報告書は指摘しています。これは、日本で時間規制を外せばどんな悪影響をもたらすのか、警告を意味します。

 しかもアメリカは、使用者に労働者の「健康確保措置」を義務付けていず「健康も自己責任」です。日本は企業に安全・健康配慮義務があります。適用除外にすれば健康も労働者の「自己責任」とされかねません。これでは、過労死や過労自殺をさらに増加させるでしょう。

 こんな制度が検討される背景には、財界の欲求があります。日本経団連などは、行政による労働時間の監督強化を嫌い、残業代を丸ごと奪い取り、不払い残業を合法化する究極の手段としてホワイトカラーの適用除外を求めているのです。

 過労死するほど働かせ、残業代を支払う最低限の義務も、健康と安全を守る責務も免れようとするのは、社会的責任の放棄そのものです。

不払い残業の根絶を

 財界の無法は許されません。「多様な働き方」が広がっているからこそ、ホワイトカラーの労働時間をきちんと管理し、不払い残業の根絶、過重労働の規制を強め、人間らしく働けるようにすることが重要です。


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