2005年5月15日(日)「しんぶん赤旗」
主張
所得課税見直し
「復権」図るというのなら
首相の諮問機関の政府税制調査会が所得税・住民税の「抜本見直し」を議論しています。論点を整理した報告書を六月にまとめる予定です。
政府税調の石弘光会長は次のように説明しています。所得税はかつては約二十七兆円の税収があった。それが、今では十四兆円程度まで減少している。これでは役割を果たせないから、「所得税の復権」を図らなければならない―。
石会長は「抜本見直し」の結果として政府の「増収」になるとのべています。政府税調が掲げる「復権」とは増税の別名です。
生活保護費まで課税
十三日の記者会見で石会長は、生活保護費も課税対象に含めるべきだとのべました。この発言は今回の増税の性格を象徴的に示しています。
生活保護費への課税は生活保護法で禁止されています。健康で文化的な最低限度の生活を保障した憲法二五条に基づく生活保護費に、課税しないのは当然です。これに課税するのは最低限度の生活費を削ることになります。憲法違反の血も涙もないやり方というほかありません。
見過ごせないのは課税理由です。生活保護の基準額が課税最低限を上回る場合があるから、というのです。それ以下の所得に課税しない限度額を表す課税最低限は、最低生活費は非課税にという税制の民主的原則と憲法二五条に基づいて設けられています。その考え方からすれば、生活保護費を下回るような課税最低限こそ改めなければなりません。
課税最低限は、所得課税の際に差し引かれる諸控除の合計で決まります。日本の課税最低限は、財務省の試算でも、欧米と比べて極端に低くなっています。日本では配偶者特別控除が廃止され、欧米では子育て減税が実施されたためです。
それにもかかわらず、政府税調は「抜本見直し」で、給与所得控除をはじめとする諸控除に大なたを振るおうとしています。子育て控除の新設の検討も掲げていますが、全体として課税最低限の水準はますます切り下げられる危険があります。
青色申告制度の廃止が、政府税調の検討課題にあがっています。きちんと帳簿を整備して所定の青い用紙で申告し、税務署長の承認を受けた場合は、税務署は具体的な理由を示さない限り「更正決定」できないという制度です。その廃止は、弱い立場に置かれた納税者の権利を削って、税務署の横暴な取り立てをあおります。
他方で石会長は、所得税・住民税の最高税率の引き上げには否定的な見解を示しています。
増税反対の共同の輪を
政府税調は「所得税の復権」の中身として、財源調達の機能とともに所得再分配の機能の回復を掲げています。しかし、「抜本見直し」は、中低所得層、生活基盤の弱い社会的弱者、中小業者を狙い撃ちにする内容です。これでは、所得再分配の機能をいっそうゆがめるだけであり、財源調達という名の過酷な増税だけが残ります。
所得税収の減少は、不況で所得が減ったことだけが原因ではありません。最高税率を引き下げ、高所得者、富裕層の税負担を軽減してきたことに大きな原因があります。
「所得税の復権」を図るというなら、空洞化を招いた原因にメスを入れ公平、公正な税制にすべきです。
政府・与党は、所得税の「抜本見直し」を、定率減税の廃止と消費税増税の前提条件として位置付けています。大増税路線に反対する共同の輪を大きく広げることが重要です。