2005年5月11日(水)「しんぶん赤旗」
主張
JR西日本事故
命奪った経営の暴走はなぜか
百七人もの人命を奪ったJR西日本の電車脱線事故から半月です。脱線の原因として、主に速度超過が指摘されています。
この点では、経営側の責任がきわめて重大であることが、浮き彫りになっています。過密ダイヤを組んだうえ、遅れが出た場合には、それを取り戻す高速運転を指示。ミスをした場合の「再教育」はいじめに等しいような内容で、安全確保に逆行するものでした。
公共交通機関は、人命の安全を最優先しなければなりません。なぜ、それに反する経営が行われたのか。事故の全面解明のために、この問題にメスを入れなければなりません。
完全民営化に突き進む
脱線現場のカーブに、新しい型の列車自動停止装置(ATS)が設置されていれば、スピードを抑え、事故を防ぐ可能性がありました。しかし、「投資効果を考えた」(JR西日本・垣内剛社長)結果、未設置でした。高速運転をさせながら、危険を防ぐための安全投資は抑えていたのです。新型ATSの設置工事費は、二〇〇〇年に十九億円だったのが〇一年は二億円へと激減。それ以降、低水準で推移しています。大阪支社の「支社長方針」は、「稼ぐ」を第一の課題としていました。
効率第一・営利優先の経営姿勢は、偶然の産物ではありません。
自民党政府が強行した国鉄分割民営化は、「効率的な経営体制を確立する」(国鉄改革法第一条)ためのもの。「国民の足」としての公共性より、株式会社としての経営的判断を重視する考え方に立っています。
二〇〇一年六月、JRの本州三社を「完全民営化」する法案の審議で、参院国土交通委員会に参考人として出席したJR西日本・南谷昌二郎社長(当時、現会長)は、次のように述べています。
「国鉄改革」の「政府の方針にのっとり、経営基盤の確立」に努力してきた。発足時五万人を超えていた社員を二〇〇〇年度末で「四万人を下回る体制にまで縮減」した。完全民営化されれば「特殊法人としての規制」が「撤廃」されるので、一日も早く実現したい。「利益をとにかく稼ぐ」「黒字を出していく」のが「民間企業としての存立のあかしであろうというふうに思います」。
〇一年、JR西日本グループは、「完全民営化が目前」だと最後の拍車をかける「中期経営目標」(〇一―二〇〇五年)を決めています。そこでの「数値目標」は、利益増と債務・人員削減(九千人)の目標だけです。「ATS―P形の設置箇所の拡大」も書いてはありますが、実際には、この時期に、工事費を激減させました。
こうした方針により、JR西日本は、運輸収入は伸びなくとも、人件費や長期債務を減らすことで利益を確保。〇五年三月期連結決算での最終利益は、前期比25・5%増の五百八十九億円になっています。
鉄道事業では、重要な部分を人間が直接担っており、むやみな人減らしは、安全性を損ないます。その上、目先の「利益」のために安全投資まで抑制した結果が、今回のような大惨事となっています。
政府の責任は重大
政府は、国鉄分割民営化や規制緩和を国策として進めてきました。企業活動の自由を拡大し、もうけ主義の暴走から国民の生命と安全を守る役目を果たしていません。今回の事故の、政治的背景になっています。国土交通省の監督のあり方をはじめ、政府の重大な責任が問われます。