2005年5月9日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
がんばれ漁業
資源の枯渇、漁業者の減少と高齢化、輸入急増によって日本の漁業はピンチです。自治体、漁協、漁民などが漁業振興にがんばる姿をリポートします。
ワカメの養殖
協業化へ市、漁協が支援
岩手・陸前高田
|
ワカメ、カキ、ホタテ、ホヤ……。どれも陸前高田市が全国に誇る海の幸です。岩手県南、三陸沿岸の陸前高田市は、森林からの豊かな川とリアス式海岸に恵まれた養殖漁業のまちです。二年前、これまでのリゾート開発から農林漁業優先の地域振興をめざす市政に転換したまちでもあります。
陸前高田市の水産漁業は、二〇〇二年十月の台風21号、〇三年三月の高波、十勝沖地震による津波、台風・大雨による流木、ゴミの湾内流入の被害など、毎年繰り返される災害とたたかってきました。
また、水産物の輸入増によって、サケ・マスやワカメなど水産物の価格暴落は漁民を深刻な経営危機に陥れ、国県に対して、セーフガード発動など三陸漁業を守るたたかいもすすめてきました。
養殖も補償
二年前に誕生した中里長門市長は、日本共産党市議時代から、漁業の現場を知り水産庁や県への交渉など、つねに漁民の立場に立ってきただけに、基幹産業を担う生産者の支援を重視しています。市政担当直後の低気圧被害に対しては、岩手県当局にも強く働きかけ、水産経営活性化対策事業と養殖ステップアップ事業を実施。その対象にワカメなどの養殖施設の災害復旧を盛り込ませ、四千八百万円(五割、六割補助)を、六月議会で全会一致で予算化しました。
同年九月の十勝沖地震による津波被害でも、カキ養殖施設の災害復旧に千九百万円の補助を実施。個人の養殖施設も対象にした災害補償という画期的な施策を県とともに行っています。
水産物被害の共済制度では、カキ、ホタテ、ワカメの特定共済で市独自の掛け金助成制度をつくり、県内で最も高い加入率になっています。
船を共同購入
漁業振興や担い手対策は、市内五漁協が合併して一年になる広田湾漁協が中心になって新たな取り組みをすすめています。四月二日に行われた高橋千鶴子衆院議員と広田湾漁協役員との懇談会で、佐々木財組合長は、「ワカメ生産の協業化」「海産物の冷凍化商品」「産直の強化」などの新しい試みをあげ、厳しい中でも新しい元気な活動を紹介しました。
三年目となったワカメ協業化は、後継者不足によって空いている漁場の有効活用を漁協が提案。現在十七、八人が一つのチームとなって、作業も船の購入も共同で行い、養殖イカダは当初の五台から六十台に増加しています。遠洋漁業から戻ってきた人や家族でやっていけなくなった人たちが参加、ある漁協役員は「一石三鳥になっている」と言います。
「広田湾ブランド」として築地市場で高い評価のカキ生産、三万人の顧客をもち、年二億円の実績となった産直、土曜市での地元消費者との地産地消の取り組みなども注目を集めています。
中里市政は今、こうした取り組みを全面的に支援しつつ、漁業関係者との協議を重ね、「魅力とやりがいのある水産業の創造に向けて」と題する十カ年の水産振興計画を策定し四月からスタートさせました。農林漁業振興を前面にした市政をすすめることによって、新たな地域づくりと持続可能で自立したまちづくりを、三陸沿岸からすすめています。(日本共産党市議 藤倉泰治)
後継者育成へ就業事業
無利子融資や有休も
高知
|
「土佐のカツオ一本釣り」で知られた高知県の漁業も深刻な状況に置かれています。
高知県は森林率八四%(全国一位)と同時に東西に海岸線が長く、基幹産業である農林業とともに、漁業が栄えなければ暮らしを守ることができません。
海面漁業生産額は一九八四年には八百億円を超えていたものが、二〇〇三年には三百七十五億円と50%以下に減り、漁業就業者数は現在五千八百人と、この十年で二千三百人減少しています。
県外から青年
こうした中で、高知県では、二〇〇〇年度から「漁業就業支援事業」制度をつくり奈半利(なはり)町、土佐清水市、室戸市などで漁業後継者の育成に努めてきました。
二〇〇〇年に、この制度を活用し県外から三人の漁業をめざす青年を受け入れた高知県奈半利町の加領郷(かりょうごう)漁業協同組合を訪ねました。
宮城、神奈川、香川県から来た青年は二〇代前半から半ば。いずれも独身でしたが二年間の研修を終え、県の漁業改善資金(三年据え置き・無利子)で船を買い、二人は結婚して今では立派に漁業を営んでいます。
その後、地元でも四人の後継者が育ち「地域に活気が出てきた」と加領郷漁協の五藤久典参事は語ります。五藤参事によると、県外での生活を捨てて飛び込んできた若者を地域で温かく迎え入れ、酒を一緒に飲み、おかずを分け、人間関係をつくってきました。
指導者が丸一年一緒に船に乗り、道具づくりから機械の扱い方まで教えるという大変な苦労もありました。
そんな苦労をしながら人口三百二十人(世帯数百二十九戸)の加領郷地域の基幹産業である漁業を守り発展させようと努力しているのです。
県のこの制度は県外者のみで地元後継者には適用されない問題点を五藤参事などが指摘し昨年度から新制度が発足し、今年から土佐清水市で地元後継者の育成が始まっています。
乱獲、低い魚価
また、五藤参事は総理大臣許可の県外大手の巻き網漁船が許可区域外の室戸沖などで違反操業を繰り返し、高知県の漁業に損害を与え、乱獲による資源の枯渇につながることを指摘しました。
室戸市室戸岬で定置網漁業に取り組んでいる小笠原憲一さん(46)は「大敷き(定置網)があるから高岡地区がある」と地域と漁業のかかわりを語ります。
小笠原さんは室戸岬灯台の下に敷かれた定置網で早朝と午後の二回、巻き上げ作業に従事しています。
高岡大敷組合では古い制度を見直し、有休や慶弔休暇、残業手当などの改善を行っています。
小笠原さんは「定置網漁業のためには藻場の造成など資源保護の取り組みと、魚価がもう少し高くなることが必要」と話します。
県水産振興課でも、大手業者が消費者販売価格の十分の一にまで買いたたくことが魚価の低さの原因だといいます。
高知県では後継者育成のほか、カツオなどが流木につく性格を利用した「黒潮牧場」(浮き魚礁)などさまざまな取り組みをしています。それでも限界があり、自公政権が農林漁業軽視の政策を改め、漁業振興の抜本的政策転換を図ることが必要です。(日本共産党高知県委員会農漁民部長 本多公二)
漁業シンポジウム 14日、陸前高田市で
三陸の漁業問題をテーマに東北草の根シンポジウムが14日、岩手県陸前高田市で開かれます。日本共産党衆院比例東北ブロック事務所、東北六県委員会が主催。岩手県漁業協同組合連合会や沿岸の市町村長などから、期待のメッセージが次々に届いています。