2005年5月9日(月)「しんぶん赤旗」
主張
墜落事故と米軍
無断立ち入り特権お断り
昨年八月、米軍の大型輸送ヘリが沖縄国際大学に墜落したときのことです。米軍が大学の同意もなしに構内に立ち入り、現場を封鎖し日本の主権を踏みにじる行動をしたのに、日本政府は、「事前の承認を受ける暇がなかったからだ。日米合同委員会合意にもとづいている」と米軍を正当化しました。これ自体まったく不当ですが、日本政府の対米追従は、それにとどまらないことが明らかになりました。米軍地位協定の実施について話し合う日米合同委員会で、事故などの際に、「事前の承認なくして」民有地などに立ち入ることができると合意していたのです。
国民だます意図的誤訳
米軍機が基地外で墜落した場合の米軍の現場立ち入りは、米軍地位協定ではなく日米合同委員会の合意で決められています。政府は、一九五三年十月に合意したのに、国会と国民にはいっさい内容をあきらかにしませんでした。六〇年の安保国会時に、要求にこたえて日本語による要旨を提出しました。
政府は、その要旨で、民間施設などの所有者から、「事前の承認を受ける暇がないときは」、米軍は立ち入ることが許されると訳していました。ヘリ墜落をうけて、日米両政府が四月一日に合意した基地外の米軍機事故にかんする指針も、この訳を踏襲しています。
しかし、日本語訳は、合意内容を正しく表現していません。米国立公文書館に保存されている米政府解禁文書の日米合同委員会合意(英文)は、「without prior authority」となっています。四月の指針の英文も同じ表記です。「事前の承認なくして」と訳す以外にありません。外務省も、「暇がないときは」とのことばが、「(英文の)単語にない」(四月二十二日衆議院外務委員会 河相外務省北米局長)とはじめて認めました。
国会に提出した要旨では、「事前の承認を受ける暇がないときは」としながら、国民の目にふれない一連の政府部内用文書では、「事前の承認なくして」と正確に訳しています。たとえば、七二年三月に法務省刑事局が作成した「合衆国軍隊構成員に対する刑事裁判権関係実務資料〔検察提要 六〕」は、「事前の承認なくして」と訳しています。刑事裁判権を担当する部局である検察が事実を知らないと困るからです。
基地の外は、日本が警察権をもっています。事故だからといって、米軍がどこにでも勝手に立ち入って、封鎖することは、本来、許されないことです。米軍が所有者の承認もなしに民公有地に立ち入ることを認めたのは、主権を放棄する態度です。
アメリカのいいなりに、米軍の特権を認め、意図的に誤訳した政府の責任は重大です。
国民に責任負う政府か
四月一日の指針は、合同委員会合意の適用対象を、墜落・不時着に加え、計器異常のランプが点滅するなどによる「着陸を余儀なくされた際」にもひろげました。日米合同委員会合意が保証した米軍特権をこのまま放置することはできません。
アメリカ向けと国民向けの使い分けは許されません。事前承認が原則と国民に説明してきた以上、アメリカにそれを認めさせるべきです。それができないというなら、日本国民に責任を負う政府とはいえません。
米軍特権を認めている日米地位協定と日米合同委員会合意は、日米安保条約が、異常な対米従属の軍事同盟であることを示しています。一日も早く廃棄することが必要です。