2005年5月3日(火)「しんぶん赤旗」
9条の精神は世界の流れ 日本の宝
きょう憲法記念日
三日、改憲策動が新たな段階に進むなかで迎えた五十八回目の憲法記念日。世界では、「戦争のない平和な国際秩序」をめざす動きが大きな流れとなっているなかで、それに逆行する日本での改憲の動きは異常です。憲法問題のいま、を考えます。
自民・民主 改憲案づくり急ぐ
「『自民党らしい憲法』というが、かかげるだけではだめ。国会の承認を得るため、各党の意見を集約しなければならない」
四月九日、岐阜市で開かれた自民党岐阜県連主催の「日本国憲法改正に関する講演会&シンポジウム」で、森喜朗前首相(新憲法起草委員長)はこう強調しました。改憲発議に国会議員の三分の二以上の賛成が必要なことを踏まえ、「意見集約」を優先する意向を示したものでした。
民主党の枝野幸男憲法調査会長も「改憲を本当にやる気なら自己満足ではなく、与野党の壁を越えて三分の二をどうやって形成するかを考えるべきだ」(四月二十五日の記者会見)と強調します。
改憲を競う自民党と民主党が「意見集約」で足並みをそろえるのは、衆参両院の憲法調査会で最終報告書をまとめたことが大きく影響しています。民主党の憲法調査会総会(四月二十五日)で確認された「民主党『憲法提言』の策定に向けて」では、衆参の報告書を「改憲・護憲の両極端な二元論的論争の時代に終始(原文のママ)を打ち、多様な角度から憲法を自由闊達(かったつ)に議論するための土台ができた」と評価しています。
自民党は、こうした動きを踏まえ、当初四月末に予定していた条文化(森試案)を断念。代わりに、「小委員会要綱」を起草委員会としての「要綱」に格上げしてとりまとめようとしていますが、それも連休明けに延期。その間、全国九つのブロックでシンポジウムなどを開催しながら、「十一月十五日の立党記念日にわが党の憲法改正草案を発表していきたい」(武部勤幹事長)としています。
民主党も、昨年末の党大会で三月をめどとしていた「憲法提言」(改憲草案のたたき台になるもの)とりまとめを連休明けに延期。二〇〇六年に示すとしている民主党としての改憲草案にむけて党内議論の集約を急いでいます。
公明党は、自民、民主両党の動向を見ながら、九条改憲にかじをきるタイミングをはかっています。
自民、民主、公明の改憲政党は、具体案づくりを急ぐ一方で、当面、改憲のための国民投票法案の国会提出・成立を狙っています。そのために、連休明け早々に国会法「改正」を提出。憲法調査会を存続させ、国民投票法案の審議・合意形成をはかろうとしています。
改憲案
「自衛軍」明記狙う
9条2項「邪魔もの」に
自民、民主両党が改憲案に向けた「合意形成」の土台と位置付けた衆院憲法調査会の最終報告書では、焦点の九条についてつぎのように記述しています。
「自衛権及び自衛隊について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない意見が多く述べられた」「非軍事の分野に限らず国連の集団安全保障活動に参加すべきであるとする意見が多く述べられた」
自民党新憲法起草委員会の「小委員会要綱」でも、「自衛のために自衛軍を保持する。自衛軍は、国際の平和と安定に寄与することができる」としぼっています。
民主党憲法調査会の「中間的報告」でも、「『制約された自衛権』を明確に位置付ける」「国連主導の集団安全保障活動への参加を明確に規定する」としています。
両者とも、「自衛権」または「自衛軍」を明記することで九条二項を改変し、海外での武力行使の「歯止め」を取り払おうとするものです。
九条二項の改変は、自衛隊の現状追認にとどまらず、日本を「海外で戦争をする国」につくりかえる重大な意味をもっています。九条二項改変は、九条全体を廃棄するに等しいのです。
なぜ、九条二項を「邪魔もの」扱いするのか。アメリカの単独行動主義にもとづく先制攻撃の戦争に参加するためです。二〇〇〇年の対日特別報告以来、日本に改憲を迫ってきたアーミテージ前米国務副長官は「憲法九条は日米同盟の妨げ」と発言、その理由を「(米軍との)連合軍が共同作戦をとる段階で、ひっかからざるを得ない」からだとのべています(『文芸春秋』〇四年三月号)。
アメリカの先制攻撃の戦争は、国連憲章も踏みにじる無法な戦争です。日本が米国とともに無法な戦争に乗り出せば、アジアと世界に重大な軍事的緊張や危険をつくりだします。そして、日本はアジア各国が警告しているように、アジアと世界で孤立する以外になくなるのです。
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人権・民主主義の後退・侵害と一体
九条改悪は人権・民主主義の後退・侵害と一体となっています。
自民党の「小委員会要綱」では、戦争国家づくりを念頭に、国民に「国防の責務」や「社会保障負担の責務」を課そうとしています。また、「国家の安全や社会秩序を維持する」として「公益」「公の秩序」を盛りこみ、戦争反対の政党・団体を抑えこむために「暴力的破壊活動を行う結社…は、『公の秩序』に照らして、法律により制限されうる」としています。
戦前の日本の侵略戦争が治安維持法などの弾圧立法などで自由と民主主義を根こそぎ破壊してすすめられた歴史の教訓を忘れてはなりません。
広がる戦争放棄
すすむ平和の秩序づくり
「(日本国憲法)第九条は世界平和のために必要です。他の国々がそれをモデルとすれば良いと思います」―。四月三十日に封切られた映画「ベアテの贈りもの」で、日本国憲法の草案作成に参加したベアテ・シロタ・ゴードンさんはこう語っています。
これは、世界の共通した評価となっています。
一九九九年五月、世界百カ国、約一万人の非政府組織(NGO)代表や学者がオランダ・ハーグに集まり「平和市民会議」が開かれました。会議は、行動の指針となる「十の基本原則」の一番目に、「各国議会は日本国憲法第九条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択するべきである」の文言が盛り込まれました。
戦争をなくし平和を守ろうとする人々にとって、戦争放棄とともに戦力不保持をうたった九条は「共通の宝」となっていることを実証した出来事でした。
イタリア憲法第一一条は、日本国憲法第九条一項と同様に戦争の放棄(否定)を宣言しています。米国がイラク戦争を始め、伊政府が占領協力のために派兵したことで、この第一一条の意義が改めて重視されています。
前欧州委員長で伊首相も務めた中道左派連合指導者、プローディ氏はイタリア軍のイラク撤兵を求めた際、その根拠としてこの第一一条を引用。「イタリア国民に提供された最も確実な基準点はわれわれの憲法だ」と述べました(コリエーレ・デラ・セラ紙二〇〇四年三月二十七日付掲載の書簡)。
ドイツの憲法に当たる同国基本法第二六条一項も、侵略戦争を「違憲」と規定しています。フランス憲法も「征服目的の戦争」を禁止しています。国連憲章も、侵略への自衛と国連安保理が認めた場合以外、武力による威嚇と武力行使を否定するなど、日本国憲法第九条が掲げる戦争の放棄は世界の流れです。
戦争のない平和な国際秩序づくりが、世界で進んでいるのも今日の特徴です。
たとえば、昨年十月に欧州二十五カ国が調印した欧州連合(EU)の憲法は、その目的に「平和」「安全保障」をあげ、「国連憲章の原則を尊重し、国際法の厳格な順守とその発展に貢献していく」と明記しています。
東南アジア諸国連合(ASEAN)が締結した東南アジア友好協力条約(TAC)には、武力行使の放棄が盛り込まれています。日中韓やインド、パキスタン、パプアニューギニア、ロシアが相次いで加入・調印しています。
また昨年十二月、南米十二カ国によって「南米共同体」が結成され、紛争の平和解決が宣言されました。
今年四月下旬、五十カ国以上の首脳を含む百カ国余の政府代表がインドネシアに集まりアジア・アフリカ首脳会議を開き、「国際法、とりわけ、国連憲章を厳守する」ことを宣言しています。
“日本を再び戦争国家化”
改憲に厳しいアジアの目
九条をはじめとする憲法改定の動きが日本で出ていることにたいし、アジア諸国の目は厳しいものがあります。
マレーシアの華字紙「星洲日報」は四月十一日付社説で、歴史教科書の「改ざん」や首相の靖国神社参拝との関連で、改憲への懸念を次のように表明しました。
「日本では、右翼勢力が戦争の犯罪行為の記憶を洗い流そうと知恵をしぼり、国連(安保理)常任理事国になろうと積極的に動いている。そこからさらに非戦憲法の改定を推進して、日本を経済大国から政治・軍事大国に変えようとしている」
日本が太平洋戦争を開始した一九四一年十二月八日、旧日本軍はマレー半島(現在のマレーシア部分)に上陸。さらにシンガポールを侵略し、マレー半島とボルネオ島一帯を全面的に軍事占領しました。
昨年十二月に発表された新「防衛大綱」は、自衛隊の役割をいわゆる「専守防衛」を建前とする軍隊から、海外派兵の軍隊へと変ぼうさせるものでした。
この「防衛大綱」について、シンガポールの華字紙「聯合早報」は、「専守防衛から先制」へと転換し、「全天候型の海外派兵体制を作」ることが主張されていると指摘。「日本の次の政治課題は平和憲法の放棄だ」と憲法九条改定につながることへの懸念を示していました(二〇〇四年十二月二十四日付)。
日本が「先制攻撃」戦略をとる米政権と世界各地で軍事行動をともにする。そのために憲法九条を改定し、海外派兵を自衛隊の中心任務とする。そうしたことでアジア諸国の信頼を得ることができるでしょうか。否です。
アジア・太平洋諸国における戦前の日本の侵略、残虐行為にたいして、「われわれは許すことができるが、忘れることはできない」というメッセージが、東南アジアのなかで語り伝えられています。
韓国でも七十人の国会議員でつくる「民族の正気を打ち立てる国会議員の会」が、「憲法改定は、過去の侵略に対する痛切な反省なしに、再び日本を戦争国家化し、軍事大国の陰謀を実現するための具体的行動である」との声明を発表(二〇〇四年十一月十七日)しています。
世界の平和のルール
国連憲章 1945年6月調印
第2条 4
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
イタリア憲法 1947年12月制定
第11条
イタリアは、他の人民の自由を侵害する手段および国際紛争を解決する方法としての戦争を否認する。
ドイツ基本法 1949年5月制定
第26条 1
諸国民の平和的共同生活を妨げ、特に侵略戦争の遂行を準備するのに役立ち、かつ、そのような意図をもってなされる行為は、違憲である。
東南アジア友好協力条約 1976年2月調印
第2条
d 平和的手段による不和または紛争の解決
e 武力による威嚇または武力の使用の放棄
ハーグ平和市民会議 公正な世界秩序のための10の基本原則 1999年5月採択
1 各国議会は、日本国憲法第9条のような政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである。
欧州憲法 2004年10月調印
第3条
1 連合の目的は、平和、連合の価値、加盟国人民の福利の推進である。
4 連合は平和、安全保障、地球の持続的開発、人民間の連帯や相互尊重、自由かつ公正な貿易、貧困の削減、人権の保護、とりわけ、子どもの権利、国連憲章の原則の尊重を含む国際法の厳守と発展に貢献しなければならない。
新アジア・アフリカ戦略的パートナーシップ宣言 2005年4月採択
多国間協力の重要性と国際法、とりわけ国連憲章を厳守する。