2005年4月26日(火)「しんぶん赤旗」

JR脱線なぜ

事故原因、背景を考える


 一九六三年に国鉄横須賀線鶴見駅付近で死者百六十一人を出した事故以来の大惨事となった二十五日のJR西日本電車脱線事故――。その原因究明はこれからの課題ですが、さまざまな要因や背景が浮かんできています。

スピードと古い装置

 JR福知山線に設置されていた列車自動制御装置(ATS)は、旧国鉄時代のものでもっとも古いタイプでした。

 赤信号を無視して進入した場合にのみ自動的に非常ブレーキがかかるだけで、とくに設定しない限り速度制限はありません。

 現場は半径三百メートルのカーブで、時速七十キロメートル以下で走行する基準になっていましたが、乗客などの話からすると通常以上のスピードを出していたことがうかがえます。

 専門家は基準を相当超えたスピードの場合、脱線の可能性があるとみていますが、実際のスピードは今後確認するしかありません。この点が原因究明のひとつのポイントです。

 現場には半径二百五十メートル以下のカーブに設置される車輪浮きあがり防止の安全レールや、脱線防止ガードもありませんでした。対策の不十分さも問題です。

石の粉砕跡

 JR西日本は、記者会見で、線路に石が粉砕された跡がのこっていることを明らかにしました。現場は三十メートルにわたってフェンスがなく、前の電車とは四分三十秒の間隔があったといいます。

 「今回の事故原因とのかかわりは不明」としていますが、仮に石があっても小さい場合にはただちに脱線するわけではなく、複数の要因がかさなった可能性があります。「小さい石でも脱線がありうるか」との質問に、JR西日本側は「石が粉砕され、脱線したことはない」と答えています。

運転士の状態

 今回事故を起こした運転士は、前の停車駅で一分半の発車遅れを出し、その遅れを取り返すためにスピードをあげていた形跡があります。

 JR西日本では、運転士が遅れを出した場合、処分を受け、乗務停止になる事例があります。この運転士も、昨年六月に百メートルのオーバーラン事故をおこして、社内処分をうけていました。遅れに敏感になっていたとしても不思議ではありません。

 JR西日本尼崎電車区では、二〇〇一年に、約一分の列車遅延をした運転士が乗務停止にされ、厳しい「教育」を受けて、自殺した事件も起きました。

私鉄との競争

 JR福知山線は、もともと大阪と丹波地方を結ぶローカル路線でした。京都府福知山市までの複線・電化の完成、一九八七年の国鉄「分割・民営化」と軌をいつにして、同じ地域を走る競合路線の私鉄・阪急電鉄(宝塚線)との集客競争を繰り広げてきました。

 「阪急を意識して競争し、ダイヤ改正のたびに大阪までの所要時間を短縮してきた」と語る元JR職員もいます。

 その結果、今では快速の場合、宝塚―大阪間で阪急電鉄より十分以上早く走るという差がついています。過密ダイヤのなかで定刻通りの運行がやかましく言われていました。

 こうしたさまざまな背景、要因が今回の事件とどうかかわるのか、今後の徹底解明が強く求められています。


軽車両化で死者増の恐れ

 鉄道の安全を市民の立場から追求するNPO「TASK・鉄道安全推進会議」副会長国府泰道弁護士の話

 鉄道事故では近年最悪の大惨事となりましたが、まず大事なのは航空・鉄道事故調査委員会が現場に急行し、きちんとした調査を行うことです。

 すばやく調査をすすめ、わかったことからマスコミを通じて遺族、負傷者と国民に知らせることが求められます。

 原因は、カーブでスピードを出しすぎていたかもしれないし、置き石かもしれない。調査によって解明されるのを待たなくてはなりません。それとともに、「サバイバルファクター」といって、事故が起きたときに乗客が生存率を高めること、死者を減らすことはできなかったのかについても、解明されることが重要です。これは調査委の調査項目にのぼっているはずです。

 今回の事故車両はスピードをあげるために軽量化した車両で、くしゃっとつぶれやすい。事故が起こらない前提で造られていて問題だとTASKは指摘してきました。軽量化車両が死者増に結びついているとしたらこれは避けねばならないし、避けられたことです。

 こういうときは責任を認めてはいけないという意識を働かせやすいものですが、当事者であるJR西日本は、遺族と負傷者のケアを第一に考えて、対応に取り組む必要があります。

最近の主な鉄道事故

1991年5月14日 滋賀県の信楽高原鉄道の電車と単線に乗り入れてきたJR西日本の車両が正面衝突。3両が脱線し42人死亡、 527人負傷
 92年6月2日 茨城県の関東鉄道取手駅で列車が車止めを突き破って駅ビルに激突、乗客1人死亡、 251人負傷
   11月3日 長崎県内の島原鉄道で普通電車同士が正面衝突。1人死亡、72人負傷
 93年10月5日 大阪市交通局の新交通システム南港ポートタウン線で自動運転列車が停止位置を越えて車止めに衝突、 217人負傷
 97年10月12日 山梨県のJR中央線大月駅構内で、通過中の特急電車に引き込み線から入線してきた回送電車が衝突し、いずれの車両も脱線。特急電車の63人負傷
2000年3月8日 営団地下鉄日比谷線の中目黒駅付近で車両が脱線し、反対車線の電車の側面と衝突。5人死亡、40人負傷
 00年12月17日 福井県松岡町の京福電鉄越前本線で電車同士が衝突し、1人死亡、27人負傷

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