2005年4月25日(月)「しんぶん赤旗」
相次ぐ輸入豚肉脱税
差額関税制度 悪用の手口
日ハム・伊藤ハム子会社も
輸入豚肉の差額関税制度を悪用した脱税事件が後を絶ちません。豚肉の需要はBSE(牛海綿状脳症)の影響もあって急増、年間八十万トンも輸入されています。その輸入豚肉の価格をごまかして関税を逃れているのです。なぜ豚肉脱税が相次ぐのか。その手口や差額関税制度の仕組みを調べてみると――。(橋本伸)
最近、摘発された差額関税を悪用した脱税事件は別表の通りです。
日常化の指摘も
特徴的なのは、ブローカー的業者の脱税だけではなく、大手食品加工会社の日本ハムや伊藤ハムの子会社が摘発されていることです。
日本共産党の高橋千鶴子議員は四月七日の衆院農水委員会で、こうした脱税が食肉業界では日常化しているのではないかと質問。輸入冷凍豚肉の八割以上が脱税がらみだという情報も寄せられていると指摘しました。
脱税の手口は、輸入申告の際、インボイス(仕入れ書)を偽造。実際の購入価格より不正に高価格に申告することで、課税を免れるというもの。
その手口も「悪質巧妙化している」(財務省審議官の高橋議員への答弁)といいます。
脱税業者が悪用する差額関税制度は、一九七一年の輸入自由化のさい、安い輸入豚肉が大量に入ってきて、国内産豚肉が値崩れするのを防ぐため創設されたものです。
同制度は、一定価格よりも安い価格で輸入されるものには、基準輸入価格(政府決定する安定価格帯の中心水準)と同額となるように関税をかけます。基準輸入価格とは、国内産豚肉の保護を考え、どんな価格で輸入した豚肉も、この価格以下では流通できない価格です。
他方、一定価格より高い価格で輸入されるものには、低率関税(4・3%)を適用します。
この制度を悪用して、安い輸入豚肉を高く輸入したと偽装申告すれば、その分関税を免れ、大きな利益を得られるわけです。
口裏を合わせて
例えば、昨年五月に逮捕された日本ハムの子会社「南日本ハム」の食肉部長は、カナダの食肉輸出会社社長と共謀、〇一年六―七月の取引では一キロ当たり四百十一―四百三十四円の豚肉を、関税がかからないように当時の基準輸入価格に合わせて五百二十五円と申告し、関税を免れていました。そのさい、豚肉は納品ごとに実体のない複数の業者を経由させていました。
同社は、日本ハムが100%出資、〇二年には米国産豚肉を使った加工食品を「鹿児島産黒豚」などと不正表示していたことも発覚しています。
もちろん、税関も事後調査をしますが、輸出業者と輸入業者が口裏を合わせれば、なかなか摘発できません。税関が地検に告発した企業は、氷山の一角という状況です。
食の安全は国民の生命にかかわります。食品を扱う企業がコンプライアンス(法令順守)を守れないとすれば、国民は安心して生活できません。
食品を扱う企業にコンプライアンスを徹底させ、モラルを取り戻させるためにも、捜査当局の本腰を入れた摘発が望まれています。
最近摘発された事件
04年11月 東京税関が食品加工大手の伊藤ハムの子会社宝永物産を関税脱税容疑で家宅捜索
同10月 関税1億3千万円を脱税した食品輸入会社「エンタープライス二十一」と社員に有罪判決
同6月 兵庫県警がカナダ産冷凍豚肉関税脱税事件で日本ハムの子会社「南日本ハム」の食肉部長を再逮捕
同5月 カナダ産冷凍豚肉関税脱税事件で、「南日本ハム」の食肉部長を逮捕。同事件で関税法違犯罪に問われた食肉卸会社「トランスパシフィック」経営者に有罪判決
同2月 輸入豚肉の関税を脱税したとして03年6月に告発された食肉卸売会社「エルイーシーフーズ」と役員に有罪判決
同1月 福岡地検が食肉輸入会社「エンタープライス二十一」の副社長らを逮捕
03年7月 カナダ産豚肉の関税脱税事件で兵庫県警が「エルイーシーフーズ」社長を再逮捕、輸出元の「MCKインターナショナル」社長を逮捕
同6月 兵庫県警が神戸の食肉輸入販売会社「ニッチク」の取締役を関税法違反容疑で逮捕
同2月 札幌地検が食肉輸入販売業「農友ミート」社長を関税法違反で在宅起訴