2005年4月22日(金)「しんぶん赤旗」
主張
日航トラブル多発
コスト削減優先が安全脅かす
安全上のトラブルを多発させ、国土交通省から事業改善命令を受けた日本航空が、同省に改善措置について報告書を出しました。しかし、経営責任はあいまいで、これで安全が確立するのかはなはだ疑問です。
現場の声聞き入れず
トラブルは、整備、運航、客室と各部門で起き、一歩間違えば大事故にもつながりかねない事態です。
報告は、トラブルの背景として、定時運行の向上のため「安全が大前提」の認識が弱まったとか、「安全が最優先」を浸透させる取り組みが不十分だったというだけです。
なぜ安全優先が弱まったのか、その根本にはメスを入れていません。
例えば、非常脱出用のドアモードの変更ミスがあった客室乗務員は、経験の浅い契約制の乗務員が多数を占める編成でした。客室乗務員はチームワークが重要なのに、正社員と契約制の差別を持ち込み、安全上の意見も言いにくい状況がつくられました。乗務員に機内販売をさせ、安全を守る役割を軽視してきました。
整備部門では、十年来自社の整備士の採用を止め、子会社や海外への委託を進めてきました。海外で整備した機体に腐食・亀裂が見つかるなど、整備ミスが絶えません。
輸送の安全に責任を負う現場の労働者は、行き過ぎたコスト削減が安全を脅かすことを指摘していました。その声を無視し、安全を軽視して、営利優先に走ってきたのが経営陣です。一九八五年の日航機墜落事故のあと日航は二度と事故を繰り返さないため「絶対安全の確立」「現場第一主義」の方針を掲げました。それがいま、まるで逆行しています。
この経営責任の反省なしに、現場に責任を転嫁するだけでは実効ある安全対策にはなりません。
重大なのは、日航が営利優先の経営を反省するどころか、新たな利益優先のリストラを進めていることです。日航グループは、〇五年度から三年間の中期経営計画で、「いかなる環境においても、利益の生み出せる事業構造」をつくるといいます。計画では五千九百人の人員削減を進め、〇七年度に千億円以上の連結営業利益の達成をめざしています。
利用者からも不安や不信の声が出ています。安全より目先の利益優先では、利用者が離れ、企業の存立基盤を揺るがすことになります。
航空産業は、運行の安全と利用者の利便を図り「公共の福祉を増進する」ことを目的としています(航空法第一条)。利益第一の一般企業とは異なり、輸送の安全にたいする特別の責任があります。航空会社がその責任を果たしてこそ、国民の信頼を得ることができます。
見過ごせないのは、トラブル多発の要因に、政府による航空の規制緩和があることです。「競争促進」を理由に、新規航空会社の参入規制が撤廃され、運賃競争が激化し、コスト削減の競争が加速されました。
「空の安全」確立へ
安全にかかわる規制も緩和されました。安全運航に不可欠な点検整備では、自社で責任を負わず、他社への委託や海外委託を認めてきました。従来は作業者と別に専門検査員が点検し二重チェックしていたのに、チェック項目を減らしました。
「空の安全」を危うくするような競争万能、規制緩和万能の政策は転換すべきです。
日航が、乗客の命を預かる公共交通機関として、行き過ぎたコスト削減、営利優先を見直し、現場の声を生かして、「空の安全」確立へ社会的責任を果たすことを求めます。