2005年4月9日(土)「しんぶん赤旗」

イラク新政府の骨格決定

新たな国づくりに一歩

国民の米軍撤退要求にどう対応


 一月末の選挙で選ばれたイラク暫定国民議会(定数二百七十五)が六日、新たな移行政府の正副大統領を選出したのにつづき、七日にはタラバニ新大統領が首相にイブラヒム・ジャファリ暫定政府副大統領を指名しました。今後、組閣と議会の承認という手続きが残っていますが、政府の骨格が決まったことは、新たな国づくりに向けイラクが大きな一歩を踏み出したことを意味します。その意義と課題を見ました。

 (カイロ=小泉大介)


 新大統領のジャラル・タラバニ氏は、議会第二勢力、「クルディスタン同盟リスト」(七十五議席)を構成するクルド愛国同盟の議長。旧フセイン体制の弾圧をうけ、中央政界から排除されたクルド人の代表が大統領となったことは、新生イラクを象徴する人事です。

スンニ派も

 新大統領は就任表明のなかで、「イスラム教スンニ派、シーア派、クルド人、すべてのイラク人が政治プロセスに参加しなければならない」とのべるとともに、武装勢力に対しても、「民主主義プロセスに招待されるべきだ」とし、イラクの混乱を国民の団結と政治的手段で解決することの重要性を強調しました。

 副大統領には、第一勢力、イスラム教シーア派政党連合「統一イラク同盟」(百四十議席)のアブドルマハディ暫定政府財務相と、スンニ派で「イラク人」(五議席)を率いるヤワル暫定政府大統領の二人が就任。暫定国民議会議長に、スンニ派のハッサーニ氏が選出されたことと合わせ、米占領に抗議して多数が選挙を棄権したスンニ派勢力にも一定の配慮がなされたといえます。

 新政府の実権を握る首相に指名されたジャファリ氏は「統一イラク同盟」を構成するダアワ党指導者で、国民的人気の高い政治家。同氏は七日、首相指名をうけ、「今日はイラクにとって大きな一歩となるとともに、私の責任の大きさも明らかとなった」「二週間以内に組閣を終えるよう全力を尽くす」と表明しました。

人事長引き

 大きく一歩を踏み出した新政府づくりですが、課題も山積しています。

 なによりも、選挙から新政府の首脳人事が決まるまで二カ月以上もの時間を要したことに多くの国民の不満がうっ積しています。行政の停滞は、経済復興、医療体制の整備などで深刻な問題も引き起こしています。

 組閣にあたり核となるのは議会第一、第二勢力の「統一イラク同盟」と「クルディスタン同盟リスト」との協議ですが、石油相など重要ポストをめぐり調整がついていません。また、スンニ派にどの程度ポストを配分するのか、議会第三勢力でアラウィ暫定政府首相率いる「イラクのリスト」(四十議席)を政府に加えるのかなどの問題も残されたままで、新首相の決意通りに事が進むかは予断を許しません。

 暫定国民議会の重要任務である恒久憲法起草も、期限の八月十五日まで残された時間はわずかです。

クルド人は

 第一、第二勢力の連立協議では、北部の油田地帯、キルクークの帰属問題が中心議題の一つになりました。旧フセイン体制により多数の住民が同地を追放されたクルド側は、キルクークをクルド人自治区に帰属させるよう強く迫りましたが、結論は先送りされたもようで、憲法起草では、キルクーク問題を含めたクルド人の権利などをめぐり、議論紛糾の可能性もあります。

投票で希望

 さらに、新政府には、選挙で示された米主導の多国籍軍の撤退という国民の願いにどう応えるのかが大きく問われます。この点では、タラバニ新大統領は就任演説で、米軍と多国籍軍を「解放軍」として最大限の謝意を表明。ジャファリ氏も、撤退日程の言及を避けています。

 新大統領選出をうけ、イラクの著名な政治評論家、ワリド・アルズバイディ氏は六日、カタールの衛星テレビ・アルジャジーラで「選挙で投票したすべてのイラク人が占領軍の撤退を希望したことは疑いない。今後の政治プロセスが真に効果を持ちうるかどうかは、この問題にどれだけ早く決着をつけるかにかかっている」と強調しました。

 また米軍のイラク中部ファルージャに対する総攻撃を厳しく批判し選挙ボイコットをよびかけたスンニ派有力組織イスラム聖職者協会のダーリ報道官は七日、「誰が大統領や首相の候補になろうがわれわれには関係がない」と改めて政治プロセス参加を否定しました。

 事実上の占領がつづくもとでの国づくりには、今後もさまざまな困難と曲折が予想されます。


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