2005年4月4日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

最低賃金生活

夕飯食べない やる気出ない 病院行けない

ああ 無い無い尽くし

味方は“ふりかけ”吉田直弘さん(26)1カ月体験に密着


 「これじゃ人間らしい生活はできない」「もうこんな生活はしたくない」−−。法律に基づく最低賃金で1カ月間、生活したらどうなるのか。最低賃金生活体験に挑戦した各地の労働組合の青年たちがいいます。この3月、今年、4度目の挑戦で初めて1カ月間やり通した埼玉・さいたま市の吉田直弘さん(26)=医療関係=に密着しました。(藤川良太)

 「そろそろおなかがすきましたね」。午前九時半すぎ通勤途中の駅のホームで吉田さんがつぶやきました。目の前には、ラーメン店が…。

 一カ月の最低賃金生活が終わりに近づいた三十日。この間、朝食を食べたのは七日、この日も食べていません。残り二日の時点で残金は千八百円。前日は夕食も抜いていました。仕事で訪れたJR加須駅に予定時間より四十分ほど早く到着しました。駅ではハンバーガーショップに入って行く女子高生たちの姿。それを横目で見ながら目的地へ向かいました。

 「予定より早くついたときは寄るんですけど…」。残金は少なく、昼は外食しなければいけません。「あしたのことを考えると入れません」

 吉田さんはスポーツ好き。三十日は、サッカーワールドカップ最終予選が埼玉で行われました。「行きたかったんですけどね」。サッカーのチケットは安くて三千円、高いものになると八千円します。

 お金問題だけではありません。「何もやる気がしない。ずっと疲れているんです」。会員になっているスポーツジムにも今月は一回も行けませんでした。「最賃生活者はジムになんて行かないのかもしれませんけど、私にとってはストレスの解消なんですが…」

 体調も今月の初めから不調でした。最賃生活初日、吉田さんは三十八度の熱が出ました。しかし、病院には行きませんでした。そのためもあって、頭がすっきりせず、頭痛がするように。「病院に行こうかとも迷ったんですけど、最賃生活だと病院には行けませんからやめました」

 吉田さんは最賃生活を振りかえっていいます。「これまでも、節約生活はしてきたつもりでした。でも、それ以上の節約を迫られます。話だけだとできるように感じるけど、実際は大変。疲れきって何もしたくなくなります。充実さを何に求めればいいのか分からなくなります。僕にはふりかけが一番の味方でした」


3月2日

朝 ご飯+インスタントポタージュ
昼 朝と同じもの
夜 おかゆ
支出 300円(食費)
日記 朝目覚めたら鼻水が止まらない。せきくしゃみも止まらない。医者にかかるか、栄養剤でこらえるか悩むも、どちらもおしい。かぜのための支出はなかった。こんなことで安どしているのが悲しい。


5日

朝・昼 ぬき
夜 もちとちぢみ
支出 1330円(交通費)
日記 友人の引っ越し手伝いのため、交通費がかさむ。食事をしなかったが、夕食は友人が作ってくれたのでラッキーだった。

10日

朝 おにぎり+お茶
昼 おごってもらう
夜 クレープ
支出 1060円(食費)
日記 今日は新潟出張。朝寝坊したため外食となる。がまんすればよかった。夜、新潟駅のクレープ屋で、チョコバナナクレープを食べた。大好物のため、がまんできなかった。

20日

朝 ぬき
昼 サンドイッチ(手作り)
夜 食パン(昼のあまり)
支出 2000円(食費、交通費)
日記 友達とピクニックに行った。徹底してケチっても交通費がかさむ。

22日

朝・昼・夜 ご飯のみ
支出 580円(交通費)
日記 徐々にひもじさを感じる。
 (この後、日記もまばらに)


 埼玉のルール 地域別最低賃金(時給)六百七十九円。一日八時間で二十二日働いたとして月給十一万九千五百四円。その中から、所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険の合計一万六千六百九十一円を控除。さらに統一家賃三万二千八百十三円を差し引き七万円です。

 吉田さんの場合、その上、電話代、ガス代、水道代、などを除いた、二万五千五百円が一カ月の生活費(一日、八百二十二円)。

 最低賃金 最低賃金法に基づき、産業別、地域別に、これ以下で人を雇ってはならないと定められた賃金(時給)。地域別最低賃金は、中央最低賃金審議会が「目安」を示し、各都道府県ごとに審議会を開いて決められ、毎年改正されます。二〇〇四年度は最高七百十円(東京)から最低六百六円(沖縄、鹿児島、山形、岩手など)。最低限の生活さえ維持できない金額なので、各地の労働組合は、その引き上げと、全国一律最低賃金制を求めて運動を進めています。


北海道 気持ちすさむ・友達へる・引上げは当然

 北海道では、「最賃ヒキアゲルンジャー2」として3月1日から青年たちが挑戦しました。体験者の感想です。

 平間健嗣さん(28) 3月18日でリタイアしました。最賃生活中はお金のことばかり頭にありました。何をするにしても、「これを、すればクリアできなくなる」と考えました。気持ちがすさみました。

 仕事で疲れ、その疲れを取るための休みの日も、お金を考えてイライラしてしまう。悪循環です。寝て、仕事して、食べるだけの生活では何のために生きているのか分からなくなります。

 佐藤健二さん(23) 1週間だけのチャレンジでした。一番節約できるのは食事。メニューは、すべて(21食)白菜のおひたし、焼きそば、ヨーグルトにしました。仕事の付き合いで飲み会に行くこともありますが、行けなくなるので付き合いは悪くなるのではないか。友達も減るんじゃないですかね。

 コンピューターでCGなどを作ったりしていますが、最賃ではコンピューターも買えません。最賃を引き上げるのは当然です。

(最低賃金・時給638円、1カ月11万2990円、1週間2万5520円で生活。その中から、所得税や健康保健、実費の家賃を差し引く)


お悩みHunter

卒業後に教職めざすしかし自信もてない

  僕は四月に大学を卒業後、教職の資格を取るために一年間勉強を続けることにしました。卒業が近づいて、人とかかわりの深い仕事をしたいと思い、教職をとって教師になろうと思いました。本当に社会に出て行く力が自分にはあるのか、教師がむいているのか、を考えると、今も揺らぎます。(23歳、男性。東京都)

興味持ったことへ挑戦して

  今、あなたが悩んでいることはすばらしいこと。あなたのように、立ち止まり人生を見つめる時間も持てず、大切な物を見失ってしまう人の方が多いからです。

 今の社会、就職しても休職、退職、転職など何が起きるか分からないと覚悟しておいた方が良いでしょう。親が援助してくれるなら、今は甘えても良いと思います。

 どんな職業につくか、それを決めるには、あなたが人間としてどう生きるかを見いだすことです。教師という職業は、自覚しようがしまいが未来に責任があります。今は信念を持っている先生ほど子どもの未来と権力とのはざまで、たたかい続けているのではないでしょうか。

 人とかかわりの深い仕事をしたいなら、ほかにもたくさん職業があります。私は舞台女優という職業を、戦争や差別が無くなるまで続けることが幸せと思っています。しかし、富や名声を重視する人には、私の生き方は極めて不幸に映るでしょう。

 一年間、死にもの狂いで探してみてください。興味を持ったことへ、がむしゃらに挑戦してみてください。きっと何か見つかるはず。そして、希望を忘れないで。社会のどこかで、あなたを必要としている場所が必ずあるはず。もし無かったとしても、あなたがその場所をつくり出せば良いのですから。


 舞台女優 有馬理恵さん 「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。


お知らせ

 「お悩みHunter」の回答者に、4月から新しい人たちが加わりました。北星学園余市高校教諭の義家弘介さんにかわって、教育評論家の尾木直樹さんと俳優座の舞台女優、有馬理恵さん。精神科医の上村順子さんと第41代ウエルター級チャンピオンの小林秀一さんは、引き続き担当します。


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