2005年3月30日(水)「しんぶん赤旗」
衆院憲法調査会の「報告書素案」
何がなんでも改憲なのか
衆院憲法調査会の幹事懇談会で示された「報告書素案」は、とりあげた論点も意図的なら、「数量的基準」なるものをもちこむなど、何がなんでも改憲論議にそった論点整理にしようとの意図がありありの内容となっています。
規程に反する
調査会は、規程によれば憲法にかんする「広範かつ総合的な調査を行う」ことが目的で、改憲の是非を議論する機関ではありません。五年をめどに議長に提出するとされた報告書も、その調査の「経過及び結果」を記すだけです。改憲論議にそって一定の方向付けをするのは、調査会規程に反します。
しかも、とりあげられた論点は、自民党新憲法起草委の「中間集約」(論点整理)とうりふたつ。前文では「我が国固有の歴史・伝統・文化等」があげられ、九条についても集団的自衛権や「国際協力」についての是非を記すだけです。男女同権や労働権については項目すらないのに、環境権などの「新しい人権」や自民党が重視する「家族・家庭に関する事項」が盛り込まれるなど、とても憲法調査と呼べる項目ですらありません。
憲法についての「広範かつ総合的な調査」というなら、九条についても実際に調査した諸外国の評価や、現実との乖離(かいり)をどう考えるのかなど、必要な事項はいくらでもあるはず。自民党や民主党などの改憲論議にあわせることを優先させたため、「自衛権及び自衛隊について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない意見が多くのべられた」という記述が「結論」であるかのように押しつけられるのです。
数のカウント
また、「素案」は、「意見を述べた委員の数をもってカウント」し「大小関係を付ける」としているため、より恣意(しい)的な整理になっています。
調査会は五年にわたっており、この間に衆院の改選は二回、政党の離合集散もあり、委員の顔ぶれは大きく変わっています。調査会はある時点での国会議員のアンケート調査ではありません。議論の発展もあれば、主張の変遷もあります。五年の調査をまとめるのに「数のカウント」にほとんど意味はありません。
「委員の数に、概(おおむ)ねダブルスコアの開きがある場合に、大小関係をつける」などという方針にいたっては、“ゲーム感覚”です。
これも改憲に必要な国会議員の「三分の二以上の賛成」という要件を意識したために出てきた基準です。「素案」がいかに改憲を意識したものになっているかを証明するものです。
今後の道筋も
さらに、「素案」には、「今後の憲法議論等」などという論点をおき、「常設機関の設置」や国民投票法案などの「憲法改正手続法の整備」が明記されています。これは、改憲作業への道筋を報告書にもちこむもので、調査会規程を踏み破るのは明白です。
調査会は、この「報告書」の作成に一億円もの国費を投じようとしていますが、改憲に向けた論点整理に巨額の費用をかける必要はどこにもありません。(藤田健)