2005年3月21日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
不登校、引きこもり増えている
働き学ぶ人に門戸 定時制つぶすな
働きながら学べる定時制高校は憲法施行の翌年一九四八年から整備され、「日本にしかない世界に誇れる教育システム」(全国高等学校定時制通信制教育振興会発行『燦々<さんさん>の太陽を求めて』第十集)になりました。その高校がいま、小泉内閣の「三位一体改革」とも絡んで統廃合の対象にされ、都市部を中心に強い反対の声があがっています。
生きる力身につけた
首都圏の高校生集い訴え
「僕らの居場所をなぜつぶしてしまうんですか」―。慣れないマイクやビラを手に、必死に訴える高校生たち。
先月二十日、神奈川県や埼玉県、茨城県など、首都圏の定時制高校生や教職員、父母ら百人が横浜市で「首都圏inヨコハマ」(かながわ定時制・通信制・高校教育を考える会主催)を開き、「定時制・通信制高校の統廃合をやめて」とアピールしました。
開催地の横浜市では、市立定時制五校すべて廃校にして、昼夜三部制の横浜総合高校に統合する「再編整備計画」が進行中です。今春、港、横浜商業、横浜工業の三校の廃校が強行されました。
「正直言って、本当に悔しい。母校が廃校になるというのは、帰る家がなくなった感じです」と語るのは、港高校の戸川寛康さん(27)。首都圏集会でもマイクを握り、五日の閉校式では生徒代表として「定時制を求める人はたくさんいる」と、最後まで「存続」を訴え続けてきました。
小学校から不登校になり、中学卒業後は「引きこもり状態」だった戸川さんが港高校の門をたたいたのは二十三歳のとき。たまたま見た市の広報で定時制を知りました。
「仕事との両立は大変でしたが、先生方から『いろんな境遇の人が集まる定時制だからこそ成長できる』と激励され、四年間頑張れました」と振り返る戸川さんは、都内の大学に進学します。
戸川さんが所属していた演劇部顧問の大沼満先生(60)は、「彼は四年間で『生きる力』を身につけた。彼のように、過去のいきさつや年齢で学校に行きたくても行けない子どもたちに、いつでも誰にでも門を開いているのが定時制なんです」。
しかし、定時制統廃合の流れは首都圏でも強まっています。千葉県が十七校を十二校程度に、埼玉県が三十三校を十三校に統廃合する計画を進めています。理由は少子化や財政難、中途退学者が多いというものです。
埼玉県高等学校教職員組合副委員長で県立与野高校定時制の畑井喜四郎先生は「行政は“欠員が出て非効率”といいますが、不登校や引きこもり、学習障害など弱い立場の生徒たちが集まる定時制は、少人数だからこそ対応できる。経済効率だけで計れるものではありません」と指摘します。
昼夜三部制高校に移行する動きも広がっていますが、横浜市の横浜総合高校では希望者が殺到し、「いつでも誰でも」の看板が崩れる事態がおきています。
戸川さんはいいます。「僕のような不登校や引きこもりの人が増加しているといわれるなか、定時制の役割はこれからもっと大きくなるはずです。『お金がかかるからつぶす』という行政のやり方は、社会に貢献する人間をつぶすということと同じではないでしょうか」(佐藤研二)
拡充こそ 石井郁子衆院議員
昨年一月三十日に採択された「国連子どもの権利委員会」による「最終所見」で、「定時制高校の統廃合を再考するよう東京都の関係当局に働きかけること」という勧告がだされました。
私は質問主意書を提出し、「いまや、夜間定時制高校は学校や社会の中で傷つき問題を抱える子どもたちの最後の受け皿となっている。定時制高校を拡充することはあっても廃止・削減することは許されない」として、「政府として関係当局に働きかけるよう」小泉内閣に迫りました。しかし回答は「設置者である地方公共団体において適切に判断されるもの」というものでした。
三月十七日の衆議院文部科学委員会でも定時制・通信制の設備補助を廃止し、地方自治体にまかせる「三位一体改革法案」に反対したところです。
半減したら通えない
大阪 27万超える反対署名
大阪府は、今年四月から夜間定時制高校を現在の二十九校から十五校に一気に減らし、残り十四校の生徒募集の停止を強行する構えです。生徒、父母、教師から「教育を受ける権利を侵害する」と怒りの声が上がっています。
府教育委員会はこの統廃合案を、二〇〇三年八月に発表。多くの府民が反対や疑問の声を上げ、二十七万を超える署名が寄せられました。にもかかわらず、府教委は同年十一月、統廃合案を強引に決定しました。
学校数を半減させると、現在往復で一時間前後の通学時間が二時間前後にもなる生徒が多数生まれます。昼間働きながら学んでいる生徒にとっては過重な負担。その結果、通学断念者や留年・中途退学者の増加に拍車をかけることになります。
「学ぶ権利を奪わないで」と存続を願う生徒や父母、教職員をあきれさせたのが、統廃合案を決めた府教委の審議。複数の教育委員が「バーやキャバレーとかではない」「夜行性動物ちゃうわな、人間は」など暴言を発し、抗議の渦を巻き起こしました。
統廃合案の発表以来、反対運動を進めてきた「夜間定時制高校の存続を求めるネットワーク大阪」は今月一日、「『定時制十四校生徒募集停止の見直し』に関する陳情書」を府議会議長に提出し、府議会の全議員に同趣旨の手紙を届けました。
陳情書は、「昨今の世情を見るとき、だれでもが学べる夜間定時制高校は、中学卒業し行き場をもたない子どもたちのセーフティネットとして、いっそうその存在意義と必要性を増しています」と位置付けています。
具体的要求として、▽各地域の必要性を勘案して募集停止を見直し無理のない再編整備を再検討する▽再配置される十五校の配置に偏りがあるので地域の必要性やバランスを考慮して再検討する▽府教委みずからがかつて適正な通学時間と説明していた三十―四十分以内で通える配置にする―など五項目をあげています。
マスコミは、相次いでこの問題を報道しています。関西を中心に発行されている月刊総合雑誌『イグザミナ』は今年三月号に特集記事を掲載。「定時制への新たな社会的『ニーズ』が生じ始め、志願者はここ数年増え続けている。削減は時代の要請に逆行することにならないか」と府の姿勢に異議を唱えています。(平岡賢)
大切な経験できる場
室谷光彦さん(62)=「夜間定時制高校の存続を求めるネットワーク大阪」共同代表= 父が早くに亡くなり、母と兄弟三人の貧しい家庭の長男だった私は、働きながら夜間定時制高校で学びました。先生たちに見守られ、自由でのびのびとした雰囲気の中、いろいろな行事にクラス全員が一つになって取り組み、すばらしい経験がいくつもできました。本物の学校に出合ったと思いました。
いじめ、不登校、引きこもりなど今の社会状況を見ると、おとながつくりだした多くのゆがみが、子どもたちにのしかかっているように思えます。定時制は、そういう弱い立場の子どもたちの最後のとりでになれる場です。それをつぶそうとするのは、多感な子どもたちの能力や可能性をつぶすことと同じです。
弱者切り捨てを許さないという点で、定時制を守る運動は、教育基本法と憲法を守る運動と直結しています。