2005年3月19日(土)「しんぶん赤旗」

平和がほしい イラク国民思い募る

侵略戦争開始から2年

“願いは米軍追出し、安全な国”


 米国によるイラク侵略戦争開始から二年。国連決議のない不法な開戦だっただけでなく、根拠とされた大量破壊兵器は発見されず、侵略とそれに続く占領の違法性はますます明らかになっています。そのもとでイラク国民は何を考え、どんな願いを抱いているのでしょうか。各界のイラク人への電話取材から、募る共通した思いが浮かび上がってきました。(カイロ=小泉大介)


死者10万人の指摘も

 「米軍による戦争と占領の二年間、彼らの不正義はすべてのイラク人に向けられました」。不正義ということばに力をこめるのは、イスラム教シーア派教徒でイラク治安部隊幹部も務めたムハンマド・サイードさん(45)です。

 大量破壊兵器の口実が崩れて、ブッシュ米政権がもちだした「イラク解放」「民主化」による占領の正当化。そのもとで繰り返される無差別攻撃にいいようのない怒りが伝わってきます。

 「イラク人は戦争と流血、暴力、民間人の殺害の横行のなかで疲れ果てています。とにかく平和がほしい」と障害者施設で働く女性のアマル・アーメルさん(49)。主婦のシュケル・ウケールさん(34)も「米占領下でイラクはめちゃくちゃになってしまいました」と嘆きます。

 中部ファルージャへの二度にわたる総攻撃。殺害された住民は数千人とみられています。全国で行われた米軍事作戦による民間人の死者は、最大一万九千四百二十二人(イラク・ボディー・カウント調査)。英医学雑誌掲載の論文では十万人との推定もあります。占領軍として治安と民政に責任をもつ米軍当局は、イラク人の犠牲者数を数えようともしていません。

 占領が長引くほど不法な侵略者の野蛮さ、凶暴さはむき出しになっています。

 武装勢力の拉致から解放されたイタリア人女性記者を銃撃し、「同盟国」ブルガリアの兵士を射殺するなど攻撃の矛先は「同盟者」にまで向けられるようになっています。

 一方で武装勢力による攻撃やテロも拡大。バグダッド南方ヒッラの自動車爆弾テロでイラク人約百二十人が死亡、北部モスルの自爆テロでは五十人近くが落命しました。

自分たちの政府つくる

 一月三十日の暫定国民議会選挙。米軍の攻撃が激しかった中部のイスラム教スンニ派地域では、占領への抗議から大多数の住民が棄権。シーア派の政党連合「統一イラク同盟」が過半数の議席を獲得しました。

 「同盟」を第一党に押し上げた国民の願い。

 「シーア派が米占領を受け入れていると考えるのは誤りです」と語るのは「同盟」に投票した男子学生のターハ・ラギーフさん(26)。「自分たちの政府をつくることによって、『政府と治安の欠如』という占領軍駐留の口実を覆したかった。僕らの願いは、占領軍を追い出して、安全で平和なイラクを自分たちでつくることです」と力を込めました。

 男性理容師のマーゼン・サルマンさん(25)も「私たちが求めているのは、米国の手ではなく、イラク人の手による政府をつくることです」と、語りました。

 多くのシーア派住民が、占領終結のため、宗派や民族を超えた共同の意思を語ります。

 「同盟」を支持するジャーナリストのワジーフ・アッバスさん(42)はいいました。

 「選挙でシーア派やスンニ派、クルド人のどの勢力が勝ったかというのは問題ではありません。私たちの願いはただ一つ、イラク国民としての尊厳を取り戻すことです」

新しい政権に注文

 政治家も前向きの姿勢を見せています。

 「同盟」の中心勢力であるイスラム革命最高評議会(SCIRI)のハキム議長は十六日に初招集された暫定国民議会で、新政府の役割が、「独立を達成し、多国籍軍の役割を終わらせる」ことにあると演説しました。

 選挙で、露骨な米軍追随姿勢をとってきたアラウィ暫定政府首相率いる「イラクのリスト」(四十議席を獲得)に投票した人々からも同様の声が聞かれます。

 男子学生のセーフ・サレフさん(22)は、「重要なのは治安の回復と電気など生活インフラの復旧です。同時に、新しい政府には占領を終結させる力強さを持ってほしい」と強調しました。

 同じ「リスト」に投票した空港職員の女性、リカウ・ジャッバールさん(44)はいいました。

 「選挙は占領を終わらせる政府をつくるために必要でした。多数のイラク人がこの理由で投票所に足を運んだのです。イラクでは貧しく罪のない多くの人間が殺されました。戦争と占領による恐怖はもうたくさんです」

イラク開戦後の推移(現地時間)

 2003年
3月20日米英軍などがイラク攻撃開始
4月 9日バグダッド陥落。フセイン政権崩壊
5月 1日ブッシュ米大統領が主要な戦闘終結と宣言
7月13日統治評議会発足
7月26日イラク復興支援特措法が成立
8月19日バグダッドの国連事務所で爆弾テロ。デメロ特別代表ら22人死亡
10月16日国連安保理、イラク駐留の多国籍部隊創設などを承認する決議1511を採択

23・24日マドリードでイラク復興支援会議
11月29日ティクリット近郊で日本人外交官の奥克彦、井ノ上正盛両氏が銃撃され死亡
12月13日米軍、ティクリット近郊でフセイン元大統領を拘束
 2004年
1月31日衆院本会議が自衛隊イラク派兵を決議
2月 8日陸自本隊第1陣がサマワに到着
3月 8日統治評議会、基本法(暫定憲法)に署名
4月 4日ナジャフ近郊で連合軍部隊とシーア派指導者ムクタダ・サドル師支持者が衝突、20人以上が死亡

28日米CBSテレビ、米兵によるイラク人虐待を報道。以降、米英軍兵士による拷問・虐待が相次いで明るみに
5月27日バグダッド近郊でフリージャーナリスト橋田信介さん、小川功太郎さんが銃撃・殺害される
6月 1日イラク暫定政府発足

 8日安保理、イラクの主権移譲に関する決議1546を採択

28日暫定政府に主権移譲
7月 1日旧政権下の人道犯罪などを裁く特別法廷、フセイン元大統領らの訴追手続き開始
8月15日国民大会議開催
10月26日香田証生さんがアブムサブ・ザルカウィ容疑者の武装組織に拉致される。30日に遺体発見
11月 8日米軍とイラク治安部隊、ファルージャを総攻撃
 2005年
1月30日国民議会選挙実施
2月28日バグダッド南方のヒッラで自爆テロ、125人死亡
3月16日国民議会が初招集される


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