2005年3月15日(火)「しんぶん赤旗」
05春闘を追う
“笑うトヨタ” くすぶる不満
「議論しまーす」 奇妙な唱和
大もうけをあげる大企業・財界が「賃金はビタ一文上げない」と突っぱねる〇五春闘がヤマ場を迎えています。「まともな賃上げで人間らしく生き、働きたい」「大企業は利益を還元しろ」と各地で労働者がたたかいを広げています。
|
「賃上げ判断要素の再整理を徹底的に議論します」と組合役員がかけ声をかけると、「議論しまーす」と組合員。「賃金にかんする議論をしっかりおこない、来年以降の道筋を明確にするため、最後の最後までガンバロー」「ガンバロー」
愛知県豊田市を中心に広がるトヨタ自動車の各工場で八日夕、奇妙な唱和があがりました。
力の入らないこぶしをあげる労働者たち。顔を見合わせて、ブツブツ。「この時期はよ、『○○○円の賃上げをかちとるぞー』っていうんじゃないのか」「おう。『議論しまーす』じゃ、力が入らんな」
昨年につづき、今年三月期決算でも、純利益が一兆円を超えるのが確実なトヨタ。収益力では、世界最大の自動車メーカー、ゼネラルモーターズ(GM)をしのぎ、「二〇一〇年代に世界一になる」と経営戦略目標を据えています。
3年連続のゼロ
この「世界のトヨタ」が三年連続してベースアップ(ベア=賃金のかさ上げ)を認めません。トヨタ労組は〇三年、〇四年に続き、三年連続でベア要求をやめました。
ならばと組合員向けに大宣伝しているのが、一時金要求。組合員平均で五カ月プラス六十二万円(平均二百四十四万円)の史上最高額を要求しています。しかし一時金はあくまで一時的なもの。業績次第でいくらでも下がることがあり、恒常的に生活を支える賃上げとは意味が異なります。
“どんなに業績がよくても賃上げはしない”という強硬な姿勢こそ、日本の大企業を束ねる日本経団連の年来の主張。日本経団連の会長は奥田碩トヨタ会長です。
異例の保留出る
|
「(この)状況でベアを要求しない、ということがどうしても納得できないという声は非常に強い。『組合はわれわれの頑張り、思いにこたえてくれないのか』との声もある」―。トヨタ労組がベア要求をしないと決めた二月十四日の労組評議会。技術系の職場から出ている評議員がこう発言しました。同様の発言が続き、賃金要求の採決で二人が保留しました。満場一致が当たり前になっているトヨタ労組の評議会では異例でした。
トヨタ・グループの職場では、「期間工」とよばれる四カ月―六カ月契約の臨時社員が二万人働き、請負とは名ばかりの実質的な派遣労働者を入れると、三人に一人は非正規雇用労働者です。
女性事務職は、正社員を廃止し、すべて派遣社員に切り替え、その数は千人に達します。
非正規への置き換えで正社員の過重労働はいっそうひどくなり、「職場には、かつてなくシラケた雰囲気が広がっている」と五十代の労働者。
製造ラインのベルトコンベヤーが故障で止まると、陰で手をたたいて喜ぶといいます。「お、これで一時間は残業だ」
労働者は賃上げがない分、残業代で収入を増やそうと考えるからです。
賃上げの検討も
「ベアは論外」という態度をとりつづけてきたトヨタが、現場に広がる“不穏な雰囲気”に押され、三月三日の労使協議会では、「賃上げを検討することもありうる」と口にしました。これが先の各工場での「賃上げ判断要素の再整理を徹底的に議論します」という唱和に表れています。
トヨタの下請け企業の不満も増大しています。
トヨタ本社がある西三河地域の鉄工所の経営者は「わしらが泣いとるもんで、トヨタが笑っとるんだがね」といいます。
県内のある下請け部品メーカーの経営者は「忙しさはバブル(泡)のとき以上なのに、もうけは十分の一」と憤ります。
ある下請け企業の経営者も「バブル時でも、午後九時には機械を止めていたが、今はそれでは赤字になる。二十四時間休みなく機械を動かして、やっと黒字が少し出る。なんとかしてくれよ」。
もうけ還元せよ
労働者や下請け企業の思いを代弁しているのが日本共産党トヨタ自動車委員会。「いまこそトヨタは大もうけを労働者と下請け企業に還元せよ」と訴え、門前や社宅でビラを配布しています。
二月十一日、全国から集まった労働者ら千五百人がトヨタ本社工場門前で「トヨタは社会的責任を果たせ」と唱和を響かせました。昨年に続き、全国規模でとりくまれた全労連と愛労連(愛知県労働組合総連合)によるトヨタ総行動です。
総行動をつぶさに見たトヨタの労働者はいいます。「トヨタは、宣伝は無視しています。でも内心は、世論をすごく気にしています。しっかり宣伝して世論でトヨタを社会的に包囲してほしい」(原田浩一朗)