2005年3月13日(日)「しんぶん赤旗」
人権擁護法案
言論表現の規制が問題
“エセ同和行為助長”と懸念も
政府が今国会への再提出を予定している人権擁護法案について、自民党内からも異論が噴出しています。
十日に開かれた自民党の法務部会と人権問題等調査会の合同会議では「人権侵害の定義があいまいだ。憲法の表現の自由に抵触する恐れがある」と意見が出されました。人権を侵害された人を救済するための「人権委員会」が損害賠償の裁判に参加できる訴訟参加制度については、“エセ同和行為を助長することにならないか”と懸念の声が出されました。結局、部会での了承は見送られました。
定義はあいまい
こうした国民の言論表現を規制する問題点については、日本共産党の井上哲士議員の質問(十日、参院法務委員会)でも浮かび上がりました。
法案では、「何を差別とするか」は人権委員会の判断という仕組みになっていますが、「差別的言動」や「差別助長行為」の定義はあいまいです。
過去の裁判でも差別表現の認定の難しさは問題になりました。
一九六九年、大阪市教組支部の役員選挙の際の「立候補あいさつ状」を「差別文書」だとして、「解同」(部落解放同盟)が暴力的糾弾を行った「矢田事件」では、刑事、民事の裁判が行われました。刑事裁判の方は、この文書が結果として差別を助長する「差別文書」だと認定。しかし民事裁判の方は、これは「差別文書」ではないという認定をしました。
井上氏はこうした事例を示し、「何が差別的かの判断は、裁判でも判断が分かれる非常に難しい問題だ。それを厳格な審査を行う司法ではなく、行政機関である人権委員会が判断して介入するのは問題だ」と指摘。滝実法務副大臣は「この種の問題としては、一番悩ましい問題だと思う」と答え、判断が難しいことを認めました。
法案提出の構え
自民党内で異論が出ているといっても、武部勤幹事長は予定していた十五日からずれこんでも、あくまで法案を提出する構えです。
同法案については、国民の言論規制の問題以外にも、メディア規制や人権委員会を法務省の外局として設置するなどの多くの問題点が指摘されています。(鮫島克)