2005年3月11日(金)「しんぶん赤旗」
横浜事件
高裁も再審支持
大戦中の言論弾圧 拷問での自白、無効
太平洋戦争中の言論弾圧事件である「横浜事件」で治安維持法違反罪に問われ、終戦直後に「有罪判決」を受け、確定した元被告らの遺族による第三次再審請求に対する抗告審で、東京高裁(中川武隆裁判長)は十日、横浜地裁の再審開始を支持、検察側の即時抗告を棄却する決定をしました。
中川裁判長は元被告らが拷問を受けたとみて、「自白の信用性に顕著な疑いがある」と判断しました。
思想そのものを弾圧する希代の悪法として知られる治安維持法違反をめぐり、高裁段階で再審開始が認められたのは初めてです。
再審請求したのは、元中央公論編集者の故木村亨さんの妻まきさん(56)ら元被告五人の遺族。
事件では約六十人が「共産主義を宣伝した」などとして検挙され、多くがポツダム宣言受諾による終戦後に「有罪」判決を受けました。二○○三年三月に請求人の一人だった元被告が死去し、生存者はいません。
遺族側は、第一次、第二次の再審請求棄却後、第三次請求で、「ポツダム宣言受諾で治安維持法の効力は失われた」と主張。横浜地裁は〇三年四月、この法律解釈を採用し、再審開始を決定しました。
東京高裁は地裁の判断について、「再審は事実認定の誤りの是正が基本。法解釈の誤りを理由にするのは、再審の本質と相いれない」と指摘し、理由には疑問を呈しました。その上で同事件のほかの元被告に対する警察官の拷問を認定した確定判決から、「木村さんらに対しても相当回数にわたり拷問を受け、虚偽の自白をしたと認められる」と判断しました。
さらに、「横浜事件の有罪判決は、自白のみが証拠であるのが特徴」と指摘。「自白の信用性に疑いがあれば、有罪の事実認定が揺らぐ」と述べ、再審開始の結論を支持しました。
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横浜事件 太平洋戦争中、特別高等警察(特高)によって引き起こされた大規模な言論弾圧事件。神奈川県特高課は雑誌『改造』に載った社会評論家細川嘉六(戦後日本共産党国会議員)の論文をきっかけに、富山県泊町での小宴を共産党再建準備の会とでっちあげ、雑誌編集者ら七十人余を検挙し、拷問で五人を獄死させました。のちに被害者の訴えによって三人の警察官が人権じゅうりんで有罪となりました。しかし、元被告・遺族らが一九八六年におこした再審請求は、九一年三月最高裁で棄却されました。