2005年3月4日(金)「しんぶん赤旗」
主張
堤前会長逮捕
企業の在り方が問われている
西武鉄道グループの支配会社・コクドの堤義明前会長が、証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。有価証券報告書への虚偽記載と株式のインサイダー(内部者)取引の容疑です。
虚偽記載の容疑は、コクドが保有する西武鉄道株の割合が六割以上に達することを知りながら、有価証券報告書に四割台と過少に記載していたこと。インサイダー取引の容疑は、過少記載の公表前に、それを相手に隠して西武鉄道株を大量に売りさばいたことです。
グループ支配の構図
西武鉄道株の保有比率は、大量売却の前には、コクドを筆頭にプリンスホテルなど上位の株主十社で九割近くに上っていました。
東京証券取引所が株式上場を廃止する基準としている「80%」を大幅に超えていたことになります。堤前会長は事実が明るみに出て株価が下落する前に高値で売り抜けました。
堤前会長の行為は株式の取引相手や一般の株主を欺いて損失を与え、上場企業や株式市場そのものへの不信感をますます増幅させました。
西武グループを創業した父の故・堤康次郎元衆院議長の後を継いだ義明氏は、堤家の資産を守ることを最大の使命にしていたといわれます。
コクドは巨大グループの親会社でありながら資本金は一億円余にすぎません。株式を上場せず、経営情報の開示を最小限に抑えていました。堤前会長がコクドの大株主として、グループの支配権を保持するゆがんだ構図が矛盾の大もとにあります。
独裁的な経営者のもとで、監査役や会計監査などのチェック機能も働きませんでした。
利益至上主義にもさまざまな形がありますが、堤家という一家系の資産を守り、増やすために巨大グループを牛耳ってきたやり方には、日本の資本主義の暗部が垣間見えます。
堤前会長は政界、とりわけ小泉首相の出身派閥である森派との結び付きが知られています。スポーツ界での地位や人脈が、グループの開発事業など利権の拡大に利用されていたのではないかとの指摘もあります。
逮捕容疑の解明のためにも、堤前会長とコクドのグループ支配の全容にメスを入れることが重要です。
三菱自動車の欠陥隠しをはじめ相次ぐ大企業の不祥事に、財界は法令の順守とともに、コーポレートガバナンス(企業統治)の確立を強調しています。しかし、その内容は、社外監査役や執行役員制の導入など、アメリカのやり方を形だけまねしたものです。
いくら形式をととのえても、会社のためであれ創業家のためであれ、何よりも利益が大切だという利益第一主義に侵されていては、経営者の専横や企業の暴走を抑えることはできません。そのほかのすべてが、利益や株価に従属させられてしまうからです。アメリカのエンロン事件やワールドコムの破たんが、それを実証しています。
利益第一からの脱却を
三菱自動車と西武鉄道グループでは現れ方こそ違いますが、利益第一の経営が不祥事の根底にあることは共通しています。
竹中経済財政相は、企業は「あくまで利潤を追求するため、もうけることを目的に存在している」と、利益第一主義を持論にしています。政権の中枢がこんな姿勢で、企業の不祥事をなくせるでしょうか。
企業は利益を追求すると同時に社会的な存在です。それをどれだけ深く認識しているかが、経営者にも政治にも問われています。