2005年3月3日(木)「しんぶん赤旗」
不当解雇の保育園復帰
父母ら、たたかいを支援
“園長先生お帰り”
北海道苫小牧市
|
北海道苫小牧市にあるNPO(民間非営利団体)法人、「冒険の森」保育園のずさんな運営を改善するよう行政機関に内部告発し、不当解雇された元園長、細井智子さん(50)が一日、職場復帰をかちとりました。
近年にない大雪が園や隣接する公園を埋め、粉雪が舞う正面玄関。職員や地域の組合員に見守られ、細井さんの復帰を祝う集いが開かれました。
「園長先生お帰りなさい」と小さな声で花束を差し出す男性職員。まわりの職員も「おめでとうございます」とこれまた小声。パタパタと音を抑えた拍手をします。
「いま、子どもたちのお昼寝時間なんです」。職員の声に促され、細井さんが「みなさんの熱い支援で帰ってきました。本当にありがとう。子どもたちのために、頑張りましょう」と小さく、力強くあいさつしました。
「冒険の森」は二〇〇一年七月、NPOが経営する全国三番目の保育園としてスタートしました。定員は四十五人で、午前七時から午後七時までの延長保育や休日保育、生後五十七日からの乳児も受け入れ、子育て真っ最中の父母から評判の保育園でした。
細井さんは、幼稚園教諭の経験も生かして、設立当初から主任保育士として勤務し、〇三年四月に園長に就任しました。
勤務実態がない理事長
ところが、園での勤務実態がない理事長をはじめ、その実兄の事務局次長、さらに父親が事務長で会計事務を取り仕切り、理事長が年七百万円もの報酬を受け取るなど、理事者が保育事業を私物化している実態が浮かびあがりました。
私物化のもとで、おもちゃは三年間一度も購入せず、絵本は保育士が自腹を切ったり、自宅にあるものを持ってきたり。ガラス戸が倒れてきても修繕せず、園と道路との間のさくもありませんでした。職員たちの労働条件も、他の園と比べて劣悪で、無償の残業がまかり通っていました。
内部告発に踏み切った
「失望し、園を去っていく契約職員の保育士が相次ぎました。子どもたちが保育士にすがって泣きました。子どもたちを泣かすこんな経営を許していいのだろうか。やむにやまれず内部告発に踏み切ったのです」
細井さんは昨年五月、厚生労働省や北海道庁・胆振支庁、苫小牧市などに文書を送りました。
それが理事者側に渡りました。理事者は六月、「業務上の重要な機密を漏らした」「虚偽の書類を作成し、法人に損害を与えた」といって、「就業規則違反」で細井さんに解雇を通告しました。
「子どもたちのことを考えると、泣き寝入りできない」。意を決した細井さんは、知人の紹介で苫小牧地区労連(道労連加盟)に相談しました。
ほぼ同時期に、職員たちも福祉保育労働組合に相談していました。
細井さんを含めて職員八人が福祉保育労に加入し、七月から団体交渉を重ねてきました。
九月末、道は監査結果を発表しました。法人側が五百九十七万円余の運営費を私的に流用していた事実が明らかになり、返還を請求。理事者側は追い詰められました。
団体交渉と並行して、細井さんは解雇処分は不当として地位確認を求める仮処分を札幌地裁に申請。今年二月、同地裁で和解が成立しました。
たたかいのなかで、多くの父母たちが支援してくれたことが力になりました。契約職員を四人正職員にするという貴重な成果も生まれました。
細井さんはいいます。「団体交渉や組合活動は初めての経験でしたが、多くの人たちに支えられて子どもたちの元に戻ることができました。久しぶりに子どもたちの顔を見たら、疲れが吹っ飛びました。みんなと力を合わせて、いい保育園をつくっていきたい」
(名越正治)