2005年3月2日(水)「しんぶん赤旗」
外資系企業
解雇無効で職場復帰
配転拒んだ女性 12年ぶり
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配転命令に応じないことを理由に懲戒解雇された一人の女性労働者が、十二年にわたる裁判闘争の結果、解雇無効・職場復帰の最高裁判決をかちとり一日、職場に復帰しました。外資系の光学機器メーカー・メレスグリオの経理担当者の黒田久子さん(58)です。
この日、埼玉県比企郡玉川村にある同社玉川工場の門前には、たたかいを支援してきた人たちが「十二年間たたかって職場復帰」と書いた横断幕。花束を手にした黒田さんが、激励の拍手に送られて出勤しました。
門前で開かれた激励集会で黒田さんは、「退職のすすめを断わったら、配転命令をだされ、それに応じないからと突然働く権利を奪われ、生計の道を断たれてしまってから約十二年。みなさんのご支援があったからこそ、今日、この場にくることができました。ちゃんとした仕事を、必要な研修のうえでかちとれるよう、ひきつづきがんばっていきます」と話しました。
ちょうど昼休みで、門を出てくる作業服姿の労働者に、黒田さんは「今日からいっしょに働く黒田です。よろしくお願いします」とあいさつし、裁判について知らせるビラを配布しました。ほとんどの労働者がビラをうけとり、「よかったですね」「がんばったかいがありましたね」と笑顔で声をかける人や構内で車座になってビラを読む人たちもいました。
黒田さんを支援してきた東京地方争議団共闘会議の小関守議長は、「配転拒否を理由にした解雇を撤回させて、職場復帰をかちとるのは画期的です」と話しました。
解説
リストラへの歯止めの判決
メレスグリオ営業本部(東京・渋谷区)に勤務していた黒田さんが、配転命令に従わないからと懲戒解雇されたのは一九九三年四月です。
上司からの退職のすすめを断ったところ、会社は、埼玉県草加市に住む黒田さんに、同じ県内とはいえ、片道通勤時間がこれまでの倍の二時間以上かかる玉川工場への配転を命じました。
配転先の仕事内容や通勤の困難性について説明をもとめ、黒田さんが加入した労働組合と会社との団体交渉が一度おこなわれた翌日に、突然、解雇されました。
黒田さんは解雇の無効、元の職場への復帰を求めて裁判に訴えました。
九七年一月の東京地裁判決は、「配転有効、懲戒解雇有効」とする不当判決でしたが、東京高裁判決(江見弘武裁判長)は、一審判決を取り消し、黒田さんが逆転勝利しました(二〇〇〇年十一月)。
判決は、「配転命令は有効」としながらも、「経営側は、原告にたいし、通勤所要時間、経路など、配転に伴なう利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供せず、必要な手順をつくしていない」と指摘。懲戒解雇は「性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等にたいする配慮を著しく欠く」とし、「解雇権の濫用(らんよう)であり無効」と結論づけました。
会社側は判決を不服として上告しましたが、最高裁第一小法廷は〇四年十二月十六日、会社側の上告を棄却し、高裁判決が確定しました。
日本では近年、会社が労働者に受け入れ困難な配転・転籍・職種転換を迫り、退職金が少なくてすむ自己都合退職か、退職金をまったく支払わないですむ懲戒解雇に追い込むリストラが横行しています。
黒田さんの弁護団の水口洋介弁護士は、「今回最高裁で確定した東京高裁判決は、日本の大企業・財界がすすめてきた安上がりなリストラ手法への大きな歯止めとして活用できるものです」と話しています。(原田浩一朗)