2005年2月19日(土)「しんぶん赤旗」

裁量労働制

年60万円もただ働き

日本IBMに是正指導

JMIU申告受け労基署


 米IBM社の100%子会社で、情報通信大手の日本IBM(本社・東京)が三分の一の労働者に導入した裁量労働制について、労働基準監督署から厳しく指導を受けています。これまでもサービス残業(ただ働き)問題で指導された“前歴”がある同社。全日本金属情報機器労組(JMIU)日本アイビーエム支部は「無法をやめ、働くルールを確立せよ」と運動しています。

 原田浩一朗記者


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ビラを配るJMIU日本アイビーエム支部の組合員=1月21日、神奈川県大和事業所前

 「際限のないただ働き残業をねらったものだという私たちの主張が通りました」。門池二次雄さん(57)は話します。同支部の裁量勤務制度対策委員を務め、改善運動の先頭に立ってきました。

 裁量制は、実際の労働時間に関係なく、労資であらかじめ合意した時間を働いたものとみなして賃金が支払われる仕組みです。日本IBMでは、非民主的な選挙で選出された労働者代表と「労使協定」を結び、昨年三月から、約二万人の労働者の三分の一に当たる約六千四百人のシステムエンジニア(SE)に裁量労働制(専門業務型)を適用しました。

 門池さんらは、SEの労働実態を丹念に調べました。ほとんどの労働者がプロジェクトの一員として仕事をしており、仕事のすすめ方について裁量の余地はないことが明らかになりました。

深夜まで勤務

 「裁量制でSE一人平均月五万円、年間六十万円の残業代が吹き飛んでしまう。会社側に事実を突き付け、団体交渉で追及した」と門池さん。

 交渉で当初、裁量制の適用対象者とされた四十七人の組合員のうち、四十一人には適用させない成果を上げました。裁量制の実施以降も、出・退勤時間を記録し、ただ働きの強要は許されないとよびかけてきました。

 Mさんは、顧客のシステムの開発・運用にかかわるプロジェクトの一員として、顧客の職場で勤務しています。チーム作業のため、個人の裁量で仕事を進めることは不可能です。トラブルへの対応もあって、深夜まで勤務せざるを得ないことがしばしば起こりました。

 〇四年三月から九月までの七カ月間で、二百八十二時間余、金額で四十二万八千円の残業代が未払いとなっていました。

 Kさんは、顧客のシステムの運用、保守、開発のプロジェクトの一員です。突発的なトラブルに対応するため、顧客のシステムの稼働時間帯は常時勤務せざるを得ず、裁量の余地はありません。〇四年四月から九月までの半年間で二百四十時間余、三十一万六千円が残業代未払いでした。

 支部は、未払い残業代を支払うよう要求。労基署にも申告し、労基署が会社を指導しました。追い詰められた会社は、Kさんを昨年十月から、Mさんを同十二月から、裁量制適用対象者から外さざるをえませんでした。Kさんの昨年六月から九月までの未払い残業代を支払うと答えました。

 大歳卓麻社長は四日、「適切な勤務時間管理および長時間勤務の防止の観点から」「勤務の実態にのっとり、正確に勤務時間を記録・申告してください」とした電子メール(別掲)を社員に出しました。

 門池さんは「勤務時間をきちんと記録して迫れば、会社も是正に応じざるをえないということがはっきりしました。ただ働きの強要となる裁量制をやめさせるためにがんばります」と話します。

 是正がすすむ一方で、運動に冷水を浴びせる動きが強まっています。

法改悪ねらう

 政府は、今国会に労働時間を年千八百時間に短縮する目標を掲げた「時短促進法」を廃止し、時短の数値目標を降ろして「事業主の自主的な努力」に委ねる法改悪をねらっています。ホワイトカラー労働者の労働時間を規制の対象外にして、青天井で働かせることができるホワイトカラー・エグゼンプション制の導入も検討しています。

 同支部は、政府・財界の動きのねらいや本質を明らかにし、すべての労働者を対象に支部の職場新聞「かいな」を届け、運動を強化していくことにしています。

 大歳社長が社員に出した電子メールから

 裁量制の労働者が「恒常的に業務量が多く、個人では解決ができない」「管理目標時間を超えていることを理由に、申請した時間外勤務を受け付けてくれない」「自己の裁量による勤務時間の配分ができない環境にあるにもかかわらず、裁量勤務が適用されている」などの問題がある場合で、所属長に相談しても有効な改善策が取られないときは、直接、経営陣に問題提起する「オープンドア」や「スピークアップ」の制度を活用するようよびかけています。




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