2005年2月1日(火)「しんぶん赤旗」

拘置所で自殺 賠償命令

東京地裁 必要な投薬中止され


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「拘置所の過失が認められてうれしい」と会見する水野寿美子さん=1月31日、東京・千代田区

 東京拘置所内で必要な投薬が中止され適切な自殺防止、救命措置が遅れたために息子・水野憲一さん(当時四十五歳)が死亡したとして、東京都立川市の寿美子さん(74)が、国の責任を問い、約一億四千三百万円の損害賠償を求めていた裁判の判決で、東京地裁の瀬木比呂志裁判長は三十一日、「安全確保義務を怠った」として、約三千万円の支払いを命じました。

 瀬木裁判長は「十年以上続いたうつ状態の治療薬の投与を突然打ち切られ、精神的に不安定になった男性が自殺に至った」と認定。「短時間の診察で、特段の説明もせず中止した医師には過失がある」と指摘しました。

 さらに「房内からぞうきんを撤去し忘れた上、異常を発見した後も、人工呼吸などの救命措置を怠っており、安全確保義務に違反した」とのべました。

 憲一さんは仕事中の交通事故をめぐり、一審で懲役七年の判決を受け、「過失」を主張して東京高裁に控訴していました。

 控訴審を前に八王子拘置支所から東京拘置所に移監されましたが、医師は睡眠薬以外の抗うつ剤などの投薬を中止。憲一さんは、身心ともに調子を崩し、同拘置所は自殺の危険性からシーツなどを引きあげましたが、ぞうきんを残しました。

 二〇〇二年六月三十日未明、独房内で意識のない憲一さんが発見されましたが、職員は放置し、死亡。同拘置所は、憲一さんはぞうきん(四十二センチ×二十九センチ)を飲み込んで自殺したと主張してきました。

拘置所の過失認められた 母親

 「息子は拘置所の過失で殺されたようなものですが、それを裁判所が認めてくれたのがうれしい」―原告の水野寿美子さんは、国に賠償を命じる判決を受けて同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見しました。一言ひとこと、かみしめるような口調で話しました。

 原告代理人の小林克信弁護士らは、(1)長年服薬していた必要な投薬の一方的な打ち切り(2)自殺防止のためにぞうきんを撤去する義務(3)救命措置を何もせず十一分間、放置した緊急医療体制のずさんさ―の三点での、拘置所の責任が認められたと指摘、「拘置所での医療や収容者の人権、処遇のあり方について明確に違法性が判断された」と判決を評価しました。

 寿美子さんは「精神障害をもつ息子のことが認められた。今後、障害や病気をもつ人が拘束されたとき、どういう対応がされるのか。拘置所の対応に期待しています」と処遇・対応の改善を要望しました。

人権保障に生かしたい

支援する会が勝利判決集会

 東京・霞が関の日本弁護士会館内では、「拘置所での投薬制限『自殺』事件・水野国賠訴訟を支援する会」(後藤絵美子事務局長、略称・水野国賠訴訟支援する会)が「勝利判決集会」を開きました。原告の水野寿美子さんが「拘置所内での収容者の医療を受ける権利や人権が認められてよかった」と頭を下げると、大きな拍手がわき起こりました。

 「障害をもつ、もたないにかかわらず、人権が保障されるべきことが証明された。きょうの判決を大いに生かしていきたい」(全国精神障害者家族会連合会)、「無年金障害者など、障害者の人権が認められる裁判が積み上げられている。この力で小泉政治を変えていこう」(全国肢体障害者団体連絡協議会)などの発言が続きました。

 同会は、東京地裁に公正な裁判を求める要請書署名と法務省人権擁護局へ東京拘置所への勧告を求める要請書署名に取り組んできました。障害者団体や労働組合、国民救援会など支持・協力の輪は大きく広がり、どちらも一万人を超える署名が寄せられてきました。

拘置所医療改善に取り組むべきだ

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 日本共産党の井上哲士参院議員の話 この間、水野さんの問題を三度にわたり参院法務委員会で取り上げ、拘置所・刑務所内で必要な医療が実施されておらず人権がじゅうりんされていることをただしてきましたが、国の責任を厳しく認めた画期的判決です。

 国は判決を重く受け止め、拘置所・刑務所内の医療の改善にこそ取り組むべきです。控訴は断念するよう法務大臣にも強く働きかけていきたい。



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