2005年1月24日(月)「しんぶん赤旗」

NHK番組への介入 東海大学 加藤久晴教授に聞く

制作現場での圧力、私も経験 

政治家に事前説明は大問題


 安倍晋三自民党幹事長代理と中川昭一経済産業相が、NHKの番組に圧力をかけた問題は、放送への政治介入として大きな問題になっています。日本テレビで長年ドキュメンタリー番組を制作してきた、加藤久晴東海大学教授(広報メディア学科)に聞きました。聞き手 小山田春樹記者

 今回のNHK番組改ざん問題で、一番大きな問題点は、NHKで番組が企画・放送されるとの情報が事前に自民党に伝わっていて、放送前にいろいろ政治介入された点です。

 番組は「放送されてなんぼの話」です。放送後に論議するのは自由で、立場によってさまざまな意見が出るのは当然ですが、放送前に改ざんされてしまっては話になりません。

 きわめて重要なテーマである「従軍慰安婦」問題を扱うというだけで、事前に封じこめて放送もさせないとの動きがあったこと自体が重大です。政権の中枢にいる政治家が「公正・中立にやってほしい」といえば圧力になります。その結果、番組が大きく変えられ、自民党としては脅しに「成功」したわけですから、強い危機感を持ちます。

TBSオウム事件

 NHKが放送内容を事前に政治家に説明しに行くこと自体が大問題で、絶対にあってはならないことです。これから放送する内容をわざわざ自民党の幹部に説明しに行くというのは放送人として考えられないことです。

 「予算説明のついでに話がでた」と言いますが、予算委員会の場で審議すればいいことであり、政治家に説明しに行くのはおかしな話です。

 NHKは、TBSの番組担当者がオウム真理教によって殺害された坂本堤弁護士のインタビュービデオを放送前にオウム真理教のメンバーに見せてしまった事件の教訓を全く学んでいません。放送前に外部の人間に編集中のビデオを見せたり、番組の内容を説明することは絶対にやってはならないことです。外部の介入を招き、放送の独立性が損なわれるからです。

 しかし、「説明しろ」との圧力が政府や政治家からも企業からも来るのが現実です。放送現場では、「番組内容を事前に教えろ」というアプローチが日常茶飯事になっています。

 ドキュメンタリーの現場の人達は、「裸で嵐の海を泳いでいるようなものだ」と言っています。つまり、放送局や法律が船や防波堤の役割を果たさなくてはいけないのに、そうなっていないのです。検閲を禁じた憲法第二一条や、外部からの干渉を排除した放送法第三条が生かされていません。

アメとムチの圧力

 私が「NNNドキュメント」を担当していて、一九九一年にリゾート法絡みの乱開発問題を扱ったときに大きな圧力がかかりました。ある大手の開発会社が番組企画の情報をキャッチすると、広報部が毎日のように電話してきました。「内容・構成や出演者を教えてくれ」というのです。収録中のスタジオにまで「構成台本やアナウンス原稿を教えてくれ」と電話がかかってきて、出演したタレントやナレーターもびっくりしていました。

 拒否すると、相手はアメとムチの方法を使ってきます。アメは、銀座のクラブでの接待です。断ると、その企業に関係のあるテレビ局の人間や局の上層部が「何とかしてやってくれよ」と言ってきます。アメがだめだと今度は脅しです。「番組の内容によっては法的な手段をとることもあります」との文書がきます。

情報公開積極的に

 私はNHKの長井チーフ・プロデューサーの記者会見を見て、「やはり介入はあったんだな」と思うと同時に、「彼は非常に勇敢だな」と思いました。介入があっても普通は表に出しませんからね。しかし、放送は公共性の強いメディアですから、電波という国民の共有財産を預かって仕事をさせてもらっているわけですから、「内部告発」というよりは情報を積極的に公開しなくてはいけないのです。NHKはこの問題の事実経過を正直に情報公開すべきです。

 一番大事なことは、NHKや民放は政府や政治家、スポンサーにたいし距離を保ち、「番組内容には介入させない」との鉄則を守ることです。



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