2005年1月19日(水)「しんぶん赤旗」

日韓条約文書公開

当時の両政府 個人補償請求権を黙殺

「日本は政治的責任を果たせ」

韓国政府 被害者・遺族への支援を検討


 一九六五年の日韓基本条約に向けた交渉で、当時の韓国軍事政権と日本政府が植民地時代の朝鮮(韓国)人被害者による個人補償の請求権を黙殺していたことが、日韓条約文書の一部公開によって明確になったことから、韓国内では日韓両政府の責任を追及する声が噴き出しています。 面川誠記者

 日本政府は「個人補償問題は解決済み」との姿勢を変えていませんが、韓国政府は「生活支援」などの形で財政的な支援を行うことを検討しています。

「慰安婦」言及なし

 韓国の民間団体、太平洋戦争被害者補償推進協議会は十八日、「拙速に協定を締結した韓国政府にも責任があるが、日本も責任を免れない」として、「日本も文書を公開してみずから問題を解決する姿勢をみせることが望ましい」と求めました。

 これに先立ち、同協議会と太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会など五団体が十七日にソウルで共同会見を開き、「両国政府が合意した対日請求権要綱の八項目には、『慰安婦』など非人道的犯罪行為についてはまったく言及がない。したがって、『慰安婦』に対する日本政府の法的責任は依然として残っている」との声明を発表しました。

 五団体は、(1)犠牲者と国民に対する日韓両国政府の公開謝罪(2)日韓両国による請求権問題の再交渉(3)日本政府による犠牲者および遺族に対する直接の補償と人道的支援―を求める要請書を韓国外交通商省に提出しました。

反人倫的な犯罪

 当時の日韓会談で韓国側は「対日請求権要綱」を提示しています。これについて日韓請求権協定は、両国と個人の請求権が「完全かつ最終的に解決された」としていますが、「要綱」には「慰安婦」問題が含まれていないため、今でも請求権が残っているとの主張です。

 ただ、韓国の法学者のほとんどは、「韓日協定で両国間の請求権問題が解決されたとなっている以上、日本政府に対する訴訟で勝つのは困難」とみています。しかし、加害国として被害者への人道的配慮は別問題だとの見方が大勢です。

 韓国の民間研究機関、民族問題研究所の金民吉吉(キム・ミンチョル)研究員は「交渉結果については韓国政府にかなりの責任があることが明らかになった」とした上で、「『慰安婦』など反人倫的な犯罪まで日本の責任が免罪されるわけではない。百歩譲っても、最低限の道義的、政治的な責任は日本政府にある」と強調し、自主的に被害者、遺族の救済に乗り出すべきだと主張しています。

政府、国会が対応へ

 韓国の李海〓(イ・ヘチャン)首相は十八日の閣議で、文書公開を「歴史を一つずつ整理し、歴史を正しく打ち立てる出発点にしよう」と呼び掛け、「過去に政府が透明な形で問題を処理できず、四十年ぶりに被害者の怒りが噴出している」と指摘、「政府は歴史の前に正直、透明でなければならないと改めて感じた。被害者の心をいやしていく姿勢で臨む」との決意を示しました。

 これは、韓国人被害者の救済を、自国の過去の過ちを明らかにし正していこうという盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が進める「歴史の見直し」政策の一環と位置付けたものです。

 公開された文書では、韓国人に対する個人補償は韓国政府が行うと明記したものがあります。今後、被害者による訴訟も予想されます。このため韓国政府は、生活支援金の支給といった形で、補償に準じた支援を行うことを検討しているといいます。

 国会では、野党ハンナラ党の李在五(イ・ジェオ)議員が十八日、「韓日会談が拙速に推進された背景、請求権問題、『従軍慰安婦』、原爆被害者問題などに対する調査を行わなければならない」として、国会に特別委員会の設置を提案。「未来志向の韓日関係を開き、北東アジアの平和を維持するためには、過去の歴史を整理すべきだ」と主張しました。

 李議員は四五年生まれ。日韓条約締結当時は二十歳の大学生で、条約と協定を「屈辱外交」と批判し、激烈な反対運動を主導した世代です。

広がる怒りの声

 怒りの声を上げているのは、アジア太平洋侵略戦争に日本軍人、軍属などとして駆り出された「被害者」だけではありません。植民地支配下で「日本人」として敗戦を迎え、戦争犯罪人として連合軍に処罰された人々もいます。

 戦後、捕虜虐待などの容疑で「B、C級戦犯」として起訴された朝鮮(韓国)人は百四十八人、このうち二十三人が死刑判決を受けたといいます。

 日本の最高裁は九九年十二月二十日、被害者・遺族が起こした補償請求訴訟の判決で、請求を棄却する一方で、「補償を可能とする立法措置が講じられていないことについて不満を抱く上告人の心情」に理解を示し、間接的に日本政府に対応を促しました。

 父がインドネシアで戦犯として処刑された韓国・忠清北道の卞光洙(ビョン・グァンス)氏は、韓国メディアに「文書公開は被害者の苦しみを清算するたたかいの始まりだ。日韓両国政府の責任を問う」と語りました。

 日韓基本条約と請求権協定 日本、韓国両政府は一九六五年六月、日韓基本条約を締結し国交を正常化しました。国交正常化交渉で大きな争点となったのが「請求権」問題。日本側は朝鮮半島に残した財産(国家、個人を含む)などの補償に言及。韓国側は、日本による侵略戦争に動員された朝鮮(韓国)人被害者への補償である「戦争による被徴用の被害に対する補償」「被徴用韓国人の未収金」を含む八項目の「対日請求権要綱」を日本側に提示しました。条約とともに締結された日韓請求権協定と同付属議定書は、これらの請求権は「完全かつ最終的に解決された」と明記しました。韓国政府は十七日、交渉関連の公文書を一部公開しました。

 侵略戦争での朝鮮(韓国)人被害 日本による植民地支配とアジア太平洋侵略戦争で朝鮮(韓国)人が受けた被害について、韓国の歴史学界は、(1)徴用七百三十二万人(2)徴兵三十八万人(3)「慰安婦」四万―二十万人(4)原爆被害者七万人―と推計しています。韓国政府は一九七五―七七年に、約百三万人の被害者のうち死者約八千五百人の遺族にのみ一人あたり約三十万ウォン(現在の約六百万ウォン=約六十万円=に相当)の補償金を支給しました。




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